最新記事

アフガニスタン

暴走カルザイという「火種」

反欧米的な過激な言動を繰り返す大統領に、オバマ政権はどんな態度を取るべきか

2010年5月12日(水)14時43分
フレッド・カプラン

 アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領に対して、打つ手はないのか。ひとことで言えば、打つ手は「あまりない」。

「銀行から100万ドル借りていれば、あなたは銀行に支配される。でも10億ドル借りれば、銀行を支配できる」という古いジョークがある。アメリカとカルザイの関係はこのジョークそのものだ。アメリカという銀行は、カルザイという債務者に振り回されている。

 カルザイ政権は、体制の正統性に始まり、予算、軍事・警察力、さらにはカルザイ自身の身の安全に至るまで、すべてをアメリカやNATO(北大西洋条約機構)などに頼っている。アメリカやヨーロッパがそこまでアフガニスタンに深入りするのは、それが自国の安全保障のために重要だと考えているから。そのことはカルザイも重々承知している。

 アメリカにとって、自分は「大き過ぎてつぶせない」債務者のようなもの。簡単には切り捨てられないはずだ──カルザイはそう計算している。

 実際、最近のカルザイはかなり強気な言動が目立つ。4月1日には、09年秋の大統領選を不正に操作しようとしたと欧米諸国を非難。欧米の駐留部隊を侵略者と決め付けた(実際には、大統領選で不正を行ったのはカルザイ自身だし、いまカルザイの命があるのは欧米部隊のおかげなのだが)。

 この発言が不興を買ったと分かると、カルザイはヒラリー・クリントン米国務長官に電話して陳謝。誤解を招いたとすれば申し訳ない、と述べた。

 ところが、その舌の根も乾かないうちにもっと過激な発言を繰り返した。「選挙不服審査委員会」の委員すべての指名権を大統領に与える改正法に反対する国会議員たちと会談した際に、こう言ってのけた。「もしあなた方と国際社会がこれ以上、私に圧力をかけるのであれば、私はタリバンに転向する」

 カンダハル州の地方指導者たちに対しては、地元が望まなければ州内におけるNATOの軍事行動を取りやめると約束した。この夏にNATOが同州で予定している軍事作戦は、バラク・オバマ米大統領のアフガニスタン戦略の土台を成すものだ。米政府内には、カルザイの過激な言動がアメリカのアフガニスタン戦略全体に悪影響を及ぼすのではないかと恐れる声もある。

 アメリカが目指すのは、治安を改善し、アフガニスタン政府が基本的な行政サービスを実施できる環境をつくること。それにより、国民が政府に信頼と忠誠を感じるようにして、タリバンなどの反政府武装勢力への支持を切り崩したいと考えている。つまり、アメリカの政策のカギを握るのはアフガニスタン政府だ。

カルザイ「過激化」の発端

 しかし、かねてから問題視されていたのは、汚職が蔓延するカルザイ政権が国民の信認を得られるのかという点だった。政府が国民にそっぽを向かれていては、どんなに軍事作戦がうまくいっても政治的な目的を達せない。

 そこへもってきて、最近のカルザイの発言により、もっと重大な疑問が持ち上がった。アメリカにとって、事あるごとに欧米を非難し続けるアフガニスタン大統領と協力することが可能なのかという疑問だ。もしそれが不可能だとすれば、アメリカはいまアフガニスタンで貴重な人命と予算を無駄にしていることになる。

 この問題を考える上で重要な点の1つは、アメリカとカルザイの亀裂が修復可能なのかどうかだ。一部の米政府当局者の見方によれば、カルザイが過激な言動に走る上では、アメリカ側の行動が図らずも背中を押した面があった。だとすれば、アメリカの行動次第ではカルザイに冷静さを取り戻させることも可能かもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英、金融指標の規制見直し 業界負担を軽減

ワールド

韓国、ウォン安への警戒強める 企画財政相「必要なら

ワールド

米、台湾への新たな武器売却承認 ハイマースなど11

ワールド

マクロスコープ:意気込む高市氏を悩ませる「内憂外患
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中