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ギリシャ発、福祉国家「死のスパイラル」

2010年5月11日(火)17時20分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

どんな経済政策も逆効果の悪夢

 福祉国家の死のスパイラルは、こんな具合に進む。政府がどんな予算を組もうとも、経済成長を鈍化させるか、あるいは不況の引き金を引くことになり、事態はますます悪化する。財政赤字の拡大を放置すれば、投資家は政府の返済能力に疑念を抱き、経済危機が再発しかねない。かといって、社会保障費の削減や増税に踏み切れば、少なくとも一時的には経済は弱体化し、社会保障費の捻出は一段と難しくなる。

 ギリシャがいい例だ。ギリシャは欧州諸国とIMF(国際通貨基金)から融資を受けるために、緊縮財政を進めてきた。年金支給額は平均11%カットされ、公務員の給与も14%カット。付加価値税の税率は21%から23%に引き上げられる。だが、そうすることでギリシャは深刻な不況に陥るだろう。09年の失業率は約9%で、19%近くまで上昇するとの予測もある。

 似た状況に置かれた国が数少ないのなら、解決は簡単だ。不運にも危機に陥った国は財政を切り詰め、健全財政の諸外国への輸出によって経済を立て直せばいい。

 しかし、現実には世界の半分を先進国が占め、その大半が過剰な社会保障制度を擁している。それらの国が市場の不安をあおらない方法で将来の社会保障コストを段階的に抑制し、リスクを低減させることは可能かもしれない。

 だが実際には、そうした対策は取られていない。例えばオバマ政権は、医療保険制度改革によって社会保障支出を増大させている。

 こうした先進国がこぞって、ギリシャのような財政危機に直面したら? 再び世界的な経済崩壊が勃発するというシナリオを考えれば、手をこまねいて事態を眺めていることの危険性が理解できるはずだ。

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