最新記事

イラン

イラン「核の脅し」に効果なし

革命記念日の前後にイラン政府高官の核開発発言がエスカレートしたが、欧米諸国にとってそれほど脅威ではない

2010年2月12日(金)17時16分
マーク・ホーゼンボール

裸の王様? イラン政府は革命記念日の祝賀行事に大量の市民を動員し、その核開発能力を誇示したが(11日、テヘラン) Raheb Homavandi-Reuters

 イスラム革命記念日31周年の11日、イランの指導者はテヘランの祝賀行事に多くの参加者を動員し、欧米に向けた新たな「脅し」を行った。だがオバマ政権とヨーロッパの同盟国は今のところ、その発言に拍子抜けしている。

 記念行事前の数日間、イラン政府の高官たちは「敵」を非難する発言をエスカレートさせていた。イラン空軍は8日、新しい無人飛行機と開発に成功したと発表。最高指導者のアリ・ハメネイ師は空軍兵士に対し、革命記念日に「度肝を抜くやり方」で、欧米の大国の「傲慢さに一撃を食らわす」と約束した。

 英BBC放送によれば、マフムード・アハマディネジャド大統領は演説の中で、イランは「核保有国」であり、まもなく濃度20%の濃縮ウランの生産を3倍にできると報告。アメリカとその同盟国に対してイランへの脅迫をやめるよう警告した。「われわれは(欧米による)差別に満ちた脅し外交に反対する......この地域を支配したいのだろうが、イラン国家はそれを許さない」

イラン核開発への「懐疑論」

 ここ数日、イランの高官たちは濃度20%のウラン製造を始める意図があると話している。だが欧米諸国はアハマディネジャドの発言をさほど重大なものとは捉えていない。「『一撃』などではない」と、オバマ政権のある外交官(微妙な外交問題であることを理由に匿名を希望)は言う。

 イランに詳しいヨーロッパのある高官(匿名を希望)によれば、アハマディネジャドやほかの高官の発言にも関わらず、欧米諸国はいまだにイランの濃度20%レベルのウラン製造能力に懐疑的なのだという。ましてや核兵器製造に必要な97%濃縮ができるとは考えていない。

 「20%の濃度にできるかどうかすら誰もわからない」と、この高官は言う。ワシントンポスト紙は11日、イランがウラン濃縮の過程で「驚くべき挫折」を経験していて、その失敗が核開発計画の劇的な進展を目指すイランの野心に「打撃を与える可能性がある」と伝えている。

 この高官はさらに、核燃料棒を国外に搬送して加工するという提案に賛成したり反対したりするイランの常軌を逸した行動が、かつては欧米による対イラン経済制裁強化に反対していたロシアを遠ざけてしまっているとも指摘する。

 高官によれば、ロシアがイランの核開発を懸念している可能性もあるという。ロシア情報当局が、イラン中部コムの秘密地下核施設のような把握していない核開発情報に不意打ちを食らわされた兆候があるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承

ワールド

ベネズエラ、大統領選の抗議活動後に拘束の99人釈放

ワールド

ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意 ロシ

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中