最新記事

イスラエル

ユダヤ人国家の破廉恥指導層

オルメルト前首相の起訴は氷山の一角。大物政治家の汚職が後を絶たないのは、国家建設が最優先で人格的欠陥は見逃された歴史に根ざす特権意識のせいだ

2009年9月2日(水)18時13分
アルフ・ベン(ハーレツ紙記者)

貪欲な快楽主義者 オルメルト前首相の起訴はイスラエル政界を浄化する一歩になるのか(写真は首相在任中の今年1月17日) Paul Hanna-Reuters

 イスラエルでは今週、汚職撲滅の動きが山場を迎えた。5カ月前に首相を辞任したばかりのエフド・オルメルトが詐欺と背任、脱税などの容疑で起訴されたのだ。

 イスラエルでは、ほかにも3人の元首相が捜査対象になったことがあるが、実際に刑事訴訟で起訴されたのは今回が初めて。ただし残念ながら、イスラエル政界にはオルメルトの「仲間」が数多くいる。

 モシェ・カツァブ元大統領は女性部下への強姦と強制わいせつの容疑で公判中だ。同じく元大統領のエゼル・ワイツマンは収賄疑惑。時効のため起訴は免れたが、道義的責任を問われて辞任に追い込まれた。

 横領と買収で有罪判決を受けたアブラハム・ハーチソン元財務相とシュロモ・ベニズリ元労働相は、9月1日に刑務所に収監されたばかり。オルメルトとカツァブの起訴に踏み切ったメナヘム・マズーズ検事総長は、現職のアビグドル・リーベルマン外相についても詐欺と収賄、資金洗浄の容疑で起訴するかどうかを近日中に判断する予定だ。

 イスラエルの政治家はなぜこれほど腐敗しているのか。

 彼らには共通の要素がある。自分はアンタッチャブルな存在と信じ、不正なカネの授受や部下との性的行為も政治家の特権の一部であるかのように振舞ってきた点だ。彼らは一度きりの小さなミスや法解釈の違いのせいで告発されたわけではない。皆、繰り返し犯罪行為に手を染めたとして糾弾されている。

出張費を二重請求して家族旅行に

 オルメルトのケースを見てみよう。起訴状によれば、オルメルトの事務所は彼がエルサレム市長と副首相の時代に、慈善団体や非政府団体(NGO)が主催する祭典での講演料を過大請求する仕組みを構築した。旅行代理店に発行させた偽の旅程表をNGOや政府に提示して、ファーストクラスの航空運賃や高級ホテルの宿泊費を二重に受け取るのだ。3年間で9万2000ドルに達した不正な出張費は旅行代理店の口座に集められ、オルメルトの家族の外国旅行に使われた。
 
 この秘密資金は、警察が別の捜査でオルメルトの事務所を調べたときに偶然発見された。その際、アメリカ人実業家のモリス・タランスキーの存在も明るみに出た。タランスキーは選挙資金や小遣いとして長年オルメルトに不正資金を供与しており、彼の証言によってオルメルトは首相辞任に追い込まれた。

 今回のオルメルトの起訴は、大物政治家の裏の顔を垣間見る稀有な機会となる。有罪か無罪かにかかわらず、オルメルトは航空券やホテルの部屋を常にアップグレードし、リッチなユダヤ系アメリカ人のパーティーに顔を出しては頼みごとをする貪欲な快楽主義者というレッテルを張られる。起訴状には「被告の行動は国を中傷し、公務員制度とイスラエル国家の評判を貶めるものだ」と書かれている。

不正を見逃した建国当時の国内事情

 一方、元閣僚のハーチソンとベニズリの手口は、オルメルト以上にずさんだった。ハーチソンは、入閣前に会長を務めていた労働組合から巨額の横領をした容疑で有罪判決を受けた。横領したカネの一部は恋人の下着購入に使われていた。ベニズリは外国人労働者の雇用について便宜を図る見返りに、建築業者から賄賂を受け取っていた。

 カツァブ元大統領については、複数の女性が強姦や強制わいせつを受けたと証言しているが、時効のために起訴できたのは一件だけ。カツァブは2年前、強制わいせつを認めて司法取引に応じたが、その後無実を主張して取引を撤回した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中