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中国経済

ウイグル弾圧は成長を阻害する

投資家は、ウイグル情勢が中国最大の弱点の反映かもしれないと恐れ始めた

2009年7月10日(金)17時01分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

投資リスク 少数民族の弾圧は、経済問題でもある(7月9日、新疆ウイグル自治区ウルムチ市) David Gray-Reuters

 中国の西端にある新疆ウイグル自治区で、漢民族と激突しているイスラム教徒の少数民族についてはすでにお馴染みだろう。この暴動は主として、中国政府が少数派のウイグル族を抑圧しているという政治問題。だが、実は経済的にも大きな影響がある。

 手始めとして、ウイグル自治区は石油と鉱物が豊富な地域。中国政府がその独立を阻止しようとする理由の一つだ。だがより重要なのは、こうした激しい民族対立は中国経済にとって最大の制約要因となりうる独裁体制の弊害ではないか、という点だ。

 最近、政治的自由と経済成長の関係について研究を行ったカーネギー国際平和財団は、両者の間には強い相関関係があるという結論に達した。

 研究は、ここ数年でますます抑圧的になっている中国やイラン、ベネズエラなどで、個人消費が急激に落ち込んだことを示している。簡単に言えば、社会が不安定だと人々はカネを使わず、経済成長も減速するということだ。

民主化してもプラスとは限らない

 中国はこれまでのところ、その影響を巨額の輸出で埋め合わせてきた。だが欧米経済の不振に伴い、そんな時代も終わりに近づいている。多くのエコノミストたちは、中国政府のウイグル族やチベットに対する弾圧、そして国民全般に対する抑圧は経済的なリスク要因としてますます無視できなくなりつつあると考えている。

 ロンドンのコンサルティング会社キャピタルエコノミクスは最近、「中国は政治的に安定しているのか」と問いかける報告書を出した。結論は、ノーだ。

 中国はこれまで、1人当たりGDP(国内総生産)が同水準の近隣諸国に比べれば政治的により安定してきた。だが中国政府の不透明性を考えると、過去の実績から将来を判断することはできないとキャピタルエコノミクスは指摘する。「どのような組織的変化があるかは、その時期と同じくらい予測が難しい」というのだ。

 中国の民主化が進めば経済改革にさらに弾みがつくだろうという発想も、短絡的すぎるかもしれない。もし中国の国民すべてが投票できるとしたら、多数派を占めるのは農村部の人々だ。そうなれば、過去20年間に沿海部(と多くの欧米の投資家たち)を潤わせてきた産業主導の経済モデルは、今より支持を得にくくなるかもしれない。

 結論を言えば、中国は私たちが考えている以上に政治的に不安定で、それゆえ経済的にも不安定かもしれない、ということだ。

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