最新記事

映画

『マダム・ウェブ』マーベルでもDCでもなくソニーが作った、駄作にして傑作

Pure Superhero Camp

2024年03月03日(日)15時55分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
『マダム・ウェブ』ダコタ・ジョンソン

事故で生死をさまよい、予知能力が覚醒したキャシー。未来が見えるマダム・ウェブにも主演作の未来は救えなかったか SONY PICTURES & MARVELーSLATE

<スパイダーマンを持て余したソニーがまたやらかした? 雑然とし、ばかげているのに面白い、スーパーヒーロー「マダム・ウェブ」誕生の物語>

マーベルがスーパーヒーロー映画のコカ・コーラ、DCがペプシなら、ソニーはRC(ロイヤルクラウン)コーラだ。飲みたいものがないときに、無難な選択肢になる。

ソニー・ピクチャーズは、アメコミを象徴するスパイダーマンの映像化権を1990年代末から持っていたが、その貴重な財産を拡張可能なフランチャイズにするどころか、見応えのある映画を1本、作るのにも苦労していた。

スーパーヒーロー映画は、さまざまな物語や主人公の世界観がつながって宇宙(ユニバース)を共有している。2015年にスパイダーマンがマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に加わるという前例のない契約が結ばれ、超人気ヒーローの運命はようやく上向いた。

最近の俳優組合のストライキや観客数の激減を受けて、MCUは劇場公開の予定を見直し、年内の公開は1本のみとなった。DCユニバースは新体制が始動したばかりで、来年公開のスーパーマン映画の準備を優先させている。ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)は年内にコミック原作の映画を3本公開する予定で、このジャンルが少なくとも2007年以来、最も低迷していることは一目瞭然だ。取りあえずRCコーラで乾杯しておこう。

その第1弾が『マダム・ウェブ』だ。救急救命士のキャシー・ウェブ(ダコタ・ジョンソン)は救助活動中に川に落ちて生死をさまよい、未来予知の能力を手に入れる。原作ではその力でスパイダーマンを救うことになる、マダム・ウェブ誕生の物語だ。

<『マダム・ウェブ』予告編ほか、映像はこちら>

いかにもミームを狙った予告編を見て最悪の事態を覚悟していたが、その意味で期待は裏切られなかった。良く言えばそこそこ、悪く言えば支離滅裂。俳優たちはとんでもない作品に出演しているという戸惑いを隠さない。茶番で、災難で、スーパーヒーローと映画の歴史を汚すこの作品を、私は大いに楽しんだ。

映画評論家は趣味が高尚すぎて、どんなものも気に入らないのだと批判されがちだが、その逆もまたしかりだ。毎年数百本の作品を何年も見続けていると、使い古された公式にちょっとひねりを加えただけでも、似たような作品の海に浮かぶ救命ボートのように感じるときがある。

『マダム・ウェブ』の舞台であるニューヨークが本物らしく見えることも、アクションシーンがCGの不穏さをほとんど感じさせないことも、今さら特筆することではない。しかし、このジャンルのトレンドを考えると、時々現れるお粗末な場面が、スーパーヒーロー映画ばかりが作られるようになる前に作られたスーパーヒーロー映画のようで、いかがわしく、雑然としていて何だか面白い。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    タンポンに有害物質が含まれている...鉛やヒ素を研究…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 1

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門

特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門

2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語