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アメリカ社会

親に依存するのは恥ずかしくない? 米国のミレニアル世代が実家に帰る理由

2021年09月22日(水)19時50分
船津徹

パンデミックに実家に戻ることを決断

ミレニアル世代は、2008年のリーマンショック最大の犠牲者と言われています。金融バブル崩壊による就職氷河期をキャリア形成の初期に経験しており、他の世代に比べて収入が低いことから、家や車などの所有欲が薄く、結婚も遅い傾向があります。

米国経済がリーマンショックから復活し、ミレニアル世代の経済的自立が進むかと思われた矢先に新型コロナウィルスのパンデミックです。ミレニアル世代の多くは、経済的な不安を回避し、健康面の安全を確保するために、実家に戻ることを選択したのです。

家賃が高額なアメリカでは、若者は一つのアパートを数人で賃借するのが一般的です。しかしリモートワークが一般化したことで、狭いアパートをルームメイトとシェアするよりも、広々とした実家に戻るほうが快適で、安全で、経済的にもメリットが大きいと判断したのでしょう。

アメリカのミレニアル世代は、親と一緒に暮らすことは、もはや恥ずべきことではないと考えているようです。経済的自立を図るためのステップとして、親と同居するほうが合理的。そのように価値観が変化しているのです。

確かに親と暮らすことで経済的な負担を大きく軽減することができます。家賃、食費、光熱費、通信費など、生活のコスト削減のメリットを活かして、学資ローンの返済、住宅購入の頭金、結婚費用の貯蓄、株式投資(資産形成)などに充当することができます。

事実パンデミック以降、ミレニアル世代の株式投資がブームになっています。売買手数料がかからず、最低1ドルから株式投資ができる「ロビンフッド」と呼ばれる投資アプリが20代、30代の間で大流行したことはご存知の方も多いと思います。親との同居で浮いたお金を株式投資に回して財テクする。ミレニアル世代ではこれがトレンドとなっているのです。

「やりたいこと」がわからない若者が増えている

経済危機、大学学費の高騰、高学歴化などによって経済的な自立が遅れていると言われているミレニアル世代ですが、私は彼らが自立できない根本的な理由は「やりたいことがわからない」ことにあるように思えてなりません。

私はアメリカで学習塾を経営し、たくさんのミレニアル世代と接してきましたが、自分が将来何をしたいのかわからない、自分が何に向いているのかわからない、そんな若者が実に増えているのです。

これを裏付ける一つのデータが「アメリカの大学生の3割が大学3年生までの間に最低1回以上メジャー(専攻)を変更している」という米国教育統計センター(National Center for Education Statistics 2017)の報告です。

アメリカの大学は入学時に学部を決める必要がありません。また文系・理系の区別もありません。全ての学生は1〜2年で一般教養を学び、3〜4年で自分が選んだ専攻を学習するのが一般的です。通常大学2年生の終わりまでに専攻を決めますが、一度専攻を決めても、在学中に何度でも変更が可能です。

社会経験がない学生にとって「将来自分が何をやりたいのか」を決めることは簡単ではありません。また目指していた道があっても、大学で様々な人と出会い、多様な価値観に触れる中で、違う分野に興味が沸いたり、より所得が高い専攻への変更を考えるのは自然なことです。

しかし、前述のようにアメリカは「専門職採用」が一般的です。「何をやりたいのかわからないからとりあえず就職する」ということが難しい社会なのです。大学時代に「やりたいこと」を明確にして、その分野の知識と経験を身につけておかなければ、大学を卒業しても、良い仕事にありつけないのです。

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