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インタビュー

恋愛抜き自伝映画の非ハリウッド的面白さ

Why She Stuck So Close to Her Real-Life Lie

2019年08月19日(月)19時00分
インクー・カン(カルチャーライター)

映画ではルル・ワン監督 (右ページ)の体験を元に、末期癌の祖母のために集まった一族の姿が描かれる EVERETT COLLECTION/AMANAIMAGES

<中国への帰郷を描いたルル・ワン監督の『ザ・フェアウェル』映画業界が見落とす心動かす物語とは>

自伝的映画であることを勘定に入れても、ルル・ワン監督の『ザ・フェアウェル』は作り手と作品との距離が非常に近い。

末期癌と診断された(ただし告知はされていない)大切な祖母とお別れをするために中国を訪れたワンの体験が、分身である主人公のビリー(オークワフィナ)を通して語られる。主な登場人物のモデルは全てワンの親族で、祖母の妹に至っては本人が登場している。

自分の体験をハリウッド映画の型にはめることをかたくなに拒み、心動かす作品を作り出したワンに、カルチャーライターのインクー・カンが話を聞いた。

――自分の体験をいかにもハリウッド映画的な 幕構成の物語に作り替えるのではなく、できる限り事実に忠実であろうとしたあなたのこだわりが印象に残った。真実にできるだけ近づけなければと、どうして感じたのか?

(最初にこの体験を語った人気ラジオ番組の)『ディス・アメリ カン・ライフ』のおかげだと思う。どれほど自分がそういうア プローチでこの物語を語りたいと思っているか、よく分かった。そうでなかったら、ああいう方法を取るのに必要な勇気は持て なかったかもしれない。

そう思うのは、ハリウッドでは物語について質問するよりも先に市場について問うことが少なくないからだ。深い話をする前に、市場や物語の構造が問題になることが多い。

ありがたいことに『ディス・アメリカン・ライフ』では最初に、「実際にあったとは思えないような話だね。この人物はどう感じたのだろう? あの人物は? あなたはどうだった?」と尋ねられた。

私はこう答えるしかなかった。「自分がどう感じたかは分かっているけれど、ほかの家族がどう感じたかまで語る立場にはな いと思う。だから本人たちに聞きましょう」と。実に純粋で美しいアプローチで、おかげで私も(体験について)理解を深めることができた。

この映画を作るプロセスは、一方で映画で描かれたことに、つまり理解と同情を深める旅に結び付いていた。大きな秘密が暴かれたりはしないけれど、答えが欲しい、カタルシスを得たいという西洋的な欲求や、それが得られないときにどうするかといったことが描かれている。

――脚本について、例えば(親族が集まる口実として開かれた結婚式の)花嫁をビリーにするとか、恋の相手をつくるといった改変を求められたと聞く。でもあなたは、ビリーと祖母の関係を映画の軸にすることにこだわった。なぜ映画産業は、恋愛以外の人間関係を描く物語をそんなに嫌うのだろう?

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