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インタビュー

恋愛抜き自伝映画の非ハリウッド的面白さ

Why She Stuck So Close to Her Real-Life Lie

2019年08月19日(月)19時00分
インクー・カン(カルチャーライター)

いい質問だけれど、私もよく分からない。最初にこの映画を売り込んだとき、何人かに「ところで(主人公にとって)乗り越えなければならない試練は何か」と聞かれた。「祖母を失うということです」と答えたら、決まって「でもいつかは失うわけでしょう。おばあさんは80代なんだから」と言い返され、言葉に詰まった。「(映画の構成に必要な要素とされる)危機や試練を入れるために、主人公に失うべき関係を持たせなければならないってこと?」と。

だから、ハリウッドがなぜ(恋愛ではない人間関係に)抵抗するのかは本当には分からない。でも、観客の反応がよかったのはそういう映画だったからだと思う。この種の人間関係を描いた映画は実に少ないから。

――中国国内で公開が認められる外国映画は非常に少ない。公開が認められたのには驚いた?

そう驚きはしなかったが、大変な思いをしたのは確かだ。(中国との)共同製作の申請が通るまでは戦いだった。それが通って、中国での配給も認められるだろうという自信を得た。

しかし心の底では、(中国の)人々もこの映画に自分を重ねることができるだろうと思っていた。中国に住む友人たちが共感してくれたからだ。それは彼らが、故郷の小さな町から北京や上海といった大都会に移り住んだ人々だったから。故郷を離れて愛する人々と十分な時間を過ごせなくなり、最後の最後にお別れを言うために戻るという状況での罪悪感や後悔は誰もが共感できるだろう。

――中国において、アジア系や中国系のアメリカ人の物語に対する関心は高いと思うか?

思わない。抵抗感を持つ人も多い。「出て行った人たちは中国のことを本当には分かっていない」という感情がある。

――確かに。

この映画で言えば「あら、あなたはアメリカ人になってしまったの?」というおばのセリフがそれだ。まるで私たちが母国とアイデンティティーを捨ててしまったと言わんばかりだが、「移民は自分たちのようには中国をきちんと理解していない」と考える彼らにもそれなりの真実はあると思う。故郷の現実を見ずに、古き良きイメージにしがみつく移民はたくさんいる。

世界各地のチャイナタウンの文化が得てして過度に中国的な理由もそこにある。古い中国の儀式や伝統、シンボルが生きている。でも今の中国の人々は、白いドレスを着て教会で結婚式を挙げる。ノスタルジアにしがみつく必要があまりないからだ。

――中国のどのようなイメージや文化的要素を入れることが作品に欠かせないと考えたか?

祖母の住む地区の様子、特にピンク色のビル群は外せなかった。特徴的で、ほかでもないその町だと私に感じさせてくれるものだったからだ。壁の色を選んだのが誰かは知らないが、町じゅうがピンク一色なのだ。非常に画一的で、中国の集産主義や共産主義も感じさせられる。

それから結婚式の記念撮影スタジオ。これだけ社会が進歩しても、中国人はロマンチックなものやファンシーなものを本当に愛している。人間や文化の素朴さや、かわいらしくて純粋なもの(への愛)。現代中国のあらゆる側面を描きたかった。

(市の中心部に立つ)虹(をかたどった構造物)でも、ロマンチックなものへの志向と進歩の対比を見せたかった。こんなに美しい虹なのに、その周囲ではビル建設が続いている。これはとても象徴的に思えた。虹は美しく魔術的な何かを象徴しているのに、建設ラッシュのただ中にあってどこか現実味がない。それは進行中のチャイナドリームにも似ている。


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※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直属・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。

[2019年8月20日号掲載]

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