16歳の心を掴みたい──『ヘドウィグ』を生んだジョン・キャメロン・ミッチェルの悩める日々
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ニール・ゲーマンの短編を基にした『パーティで女の子に話しかけるには』(2017年)は異色のSFロマンス。監督のミッチェル(左)とヒロインを演じたエル・ファニング(右) Jean-Paul Pelissier-REUTERS
<母親の医療費のために巡業し、赤字覚悟でミュージカル制作......LGBTカルチャーのカリスマ、ジョン・キャメロン・ミッチェルの『ヘドウィグ』を生んだパンク魂は健在>
「昔は自分が台風の目だったのにね、今はやたら忙しくて目が回る」。ジョン・キャメロン・ミッチェルはそう言って苦笑いした。ごもっとも。55歳にしてドサ回りの旅(聞こえのいい言い方では「世界ツアー」)に出るのは楽じゃない。
ミッチェルと言えば、ジェンダー横断的な衝撃のミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の生みの親にして主演俳優。東ドイツに生まれたトランスジェンダーのロック歌手が愛を求めてアメリカに渡るこの物語(音楽はスティーブン・トラスク)は、ちょうど20年前の1998年にオフブロードウエイで幕を開けると、たちまちカルト的な人気を博した。01年には自身の監督・主演で映画版も製作し、みごとサンダンス映画祭で監督賞に輝いている。
06年には監督2作目となる映画『ショートバス』を発表。こちらは「ポルノに任せておくのはもったいない」という理由でセックスの行為を丹念に描いた作品で、ローリングストーン誌から「心優しきハードコアポルノ」と絶賛された。
『ヘドウィグ』で世界に衝撃を与えたミッチェル MATTHEW PLACEK; EVERETT COLLECTION/AMANAIMAGES
その後も、役者として人気ドラマ『GIRLS/ガールズ』や『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』に出演するなど、順調にキャリアを積んできた。そして14年には、あの『ヘドウィグ』がブロードウェイでリバイバル上演され、トニー賞4部門を獲得。ミッチェル自身も特別賞を贈られている。
まさにLGBTカルチャーのカリスマ的存在。今の時代なら過去の栄光だけでも十分に食っていけそうなものだが、どうやらそうでもないらしい。
16歳の心をつかみたい
海外のソロ公演は「あまり儲からない。テレビのギャラと同じくらいだ」と、ミッチェルは言う。「でも役者の仕事は風任せ。いつ舞い込んでくるか分からない」
映画作りも思うようにはいかない。最近はみんなリスクを恐れて、『ショートバス』のような風変わりな映画には手を出さない。昔は違ったと、ミッチェルは振り返る。