最新記事

アート

日本に埋もれていた衝撃の傑作「アール・ブリュット」が海外で高評価されているワケ

2018年12月05日(水)18時10分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

滋賀県の「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」(2004年設立)の関係者がローザンヌを訪れてペリーさんに日本発を紹介したことが縁で、彼女が来日。創造性豊かな作品の数々を見た感激は自分だけのものにはしておけない、ぜひともローザンヌで披露したいと強く思い、入念に準備を進めたのだった。「日本のアール・ブリュット作品に共通していることは、きめの細やかさです。私は、ジャポン展を見る人たちに、作品を通して日本を感じてほしかったのです」。ペリーさんは筆者が以前行ったインタビューでそう話した。

現在の館長サラ・ロンバルディさんも、「洗練さや遊び心、力強さや創意工夫に溢れ、ときに反骨精神もある作品を紹介する(今回の)『日本のアール・ブリュット もう一つの眼差し』展は、日本文化に対する私たちの視野をいっそう広げてくれることでしょう」とコメント(*)している。書道、生け花、盆栽といったヨーロッパで知られる典型的な日本のアートではないものを鑑賞して、日本への理解を深めてほしいと願っているのだ。

kazuhiko-takahashi01.jpg
高橋和彦の作品 Photo: Satomi Iwasawa

shinichi-sawada01.jpg
澤田真一の作品 Photo: Satomi Iwasawa

栃木県の「もうひとつの美術館」が国内初

海外での称賛によって日本のメディアでも国産アール・ブリュットがしばしば取り上げられ、作品を見られる機会も増え一般の人たちの関心も高まった。だがアール・ブリュットは昔から日本にあった。

「アール・ブリュットには〈自分のためだけに人知れず行う創作〉という捉え方もあります。そのような創作は、ずっと昔から行われていたでしょうが、たいていは人の目に触れず、触れたとしても特段注目されることもなく埋もれてしまったのでしょう」。そう説明するのは、2001年に栃木県に開館した日本初のアール・ブリュット美術館「もうひとつの美術館」の梶原良成理事(建築家・宇都宮大学教授)だ。

「常にアンテナを張っていても、地方に行くと必ず未知の優れた作家が何人もいます。人知れず創作するという特性からしても発掘され尽くすということはありえないでしょう」と今後も同館での展示に向けて意欲的だ。

6月から「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が施行されて障害者へのアート活動の支援が加速したり、アール・ブリュットの作品を専門に扱う初めてのギャラリーが8月にオープンしたりで、作品が一般の人たちにより身近になっていく兆しが見える。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 3

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 4

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 1

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 2

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 3

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 4

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 5

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が尊敬する日本の小説36

特集:世界が尊敬する日本の小説36

2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは