名人は危うきに遊ぶ──組織におけるキレッキレの遊泳術は『ハウス・オブ・カード』に学べ

主役が降板した今作。権力は妻役のロビン・ライトの手に? Mario Anzuoni-REUTERS
<日本でもハマる人が続出した同作は、単にリアリズム溢れる政治ドラマというだけでなく、ビジネスシーンでのリーダーシップや人間関係のヒントになり得る>
2013年にネットフリックスでシーズン1が公開され、一躍人気作品となった『ハウス・オブ・カード』。映画監督のデヴィット・フィンチャーが制作の総指揮を執り、アカデミー賞俳優が主演を張る豪華布陣で、映画に劣らぬ完成度の高さが視聴者に驚きを与えた。
ストリーミング専用のドラマとしては異例のエミー賞ノミネートを果たし、主演(シーズン1~5)のケビン・スペイシーと妻役のロビン・ライトがゴールデングローブ賞を受賞。オバマ元大統領もファンだと公言していたことでも有名だ。この作品が11月2日、最終章となるシーズン6をネットフリックスで世界同時配信する。これに合わせ、3回にわたってドラマの魅力を解説。第1弾は、シーズン1~2にかけての見所をお伝えしたい。
金を求めるのは「愚か者」。権力を追求するトリックスターの復讐劇
物語の舞台はワシントン。主人公フランシス・アンダーウッド(ケビン・スペイシー)は、与党・民主党で議員をとりまとめる院内総務という要職を務める大物の下院議員だ。ホワイトハウスと議会の間の意見を調整し折衝する与党の最高幹部の一人。一般的にはそれほど知られた存在ではないにしても、ワシントンでは顔が利く存在だ。フランシスは南部の貧しい家庭で生まれた、たたき上げの議員。当選回数が多く、同僚議員のことは表も裏も知り尽くす。腹の底を見せることがない「食えない」人物だ。
フランシスがキャリアを通じて追及しているものはただ1つ、権力だ。彼は権力よりも金を得ることに血道を上げる人間を、たびたび「愚か」と表現する。大きな資産を持つことは当然強みになるが、同時に弱点にもなり得る。権力者は金持ちの財産を危険にさらすことができるし、どんな大富豪であっても動かせないようなカネを操れるのが権力だ。
シーズン1の公開記念イベントに現れたケビン・スペイシー(右)とロビン・ライト(左)(2013年1月31日)Stephen Chernin-REUTERS
ハウス・オブ・カードは、ホワイトハウスと議会を相手にフランシスが「トリックスター」として活躍していくことで、進行していく。トリックスターとは文学の世界で「既成の秩序に揺さぶりをかけ攪乱する存在」(井波律子著『トリックスター群像』より)と定義され、「道化」などとも呼ばれるキャラクターを指す。誰の味方に付くのか判然とせず、周囲には予想がつかない動きを繰り返して物語は揺さぶられ、思わぬ方向に進む。