最新記事

海外ドラマ

名人は危うきに遊ぶ──組織におけるキレッキレの遊泳術は『ハウス・オブ・カード』に学べ

2018年11月01日(木)17時45分
小堀栄之(経済ライター)

ウソや脅迫のオンパレード

そのフランシスは、州知事だったギャレット・ウォーカー大統領の当選に尽力し、新政権では国務長官に指名される約束だった。その約束を反故にされたことからフランシスの復讐劇が始まるわけだが、それ以降の暴れっぷりはトリックスターそのもの。

自分の代わりに選ばれた国務長官候補を失脚させることなど序の口で、腹心にして側近のダグ・スタンパーや手駒の若手議員ピーター・ルッソ、リークを提供する新聞記者ゾーイ・バーンズだけでなく、時には妻のクレア・アンダーウッド(ロビン・ライト)までも総動員してウソや脅迫、罠を次々に繰り出す。

民主党の有能な幹部として、教育法案をはじめとする難題をこなすフランシス。その裏では、ウォーカー大統領や女性首席補佐官のリンダ・バスケスが中心となって構築する「秩序」を攪乱し、揺さぶりをかけているのもフランシスだ。典型的なエリートタイプのウォーカーやリンダが、フランシスの計略にはまり孤立させられ疑心暗鬼に陥る様子は、見ていて時折気の毒になるほどだ。

この世で一番恐ろしいのは「人間」か

たびたび大統領から裏切りの疑いをかけられながら、フランシスは本音を決して明かさない。政権や議会の中枢を相手に回し、相反する立場の危うい均衡を保ち続ける様子はスリルに満ちる。

「名人は危うきに遊ぶ」という言葉があるが、表と裏を行き来する彼の「遊泳術」が、シーズン1から2にかけての見所の一つだろう。

そもそも、ドラマの中でフランシスの本音が明確に示されることは少ない。ドラマのはじめで「復讐」を誓ってからも、実は誰に対して・どのように実行していくかは明かされないまま物語は進む。

ドラマを見る側は、回が進むうちに「タネ明かし」に納得したり驚いたりすると同時に、新たに提示される謎にも直面し、引き込まれていく。ドラマでは、フランシスが読者に語りかけるシーンが所々挟み込まれるが、それすらも本心なのか――「名人」の心中は計り知れない。

【第2弾】夫婦でも、無条件の献身はありえない──人気の海外ドラマが描くエリート夫婦の「共闘関係」とは?
【第3弾】『ハウス・オブ・カード』が単なる政治劇でなく、「何かを成し遂げる」魅力的な仕事人たちのドラマである理由
【参考記事】『ハウス・オブ・カード』が変えるドラマの法則

("House of Cards"公式アカウントより)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:アマゾン販売の中国製品がCPI上回る値上

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ビジネス

マスク氏のxAI、債務と株式で50億ドルずつ調達=

ワールド

米政府、資源開発資金の申請簡素化 判断迅速化へ
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    遺体を堆肥化する「エコロジカル埋葬」 土葬も火葬…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    メーガン妃からキャサリン妃への「同情発言」が話題…

  • 5

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 3

    遺体を堆肥化する「エコロジカル埋葬」 土葬も火葬…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    なぜメーガン妃の靴は「ぶかぶか」なのか?...理由は…

  • 5

    メーガン・マークル、今度は「抱っこの仕方」に総ツ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:トランプvsイラン

特集:トランプvsイラン

2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる