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世界一スキャンダラスな絵画、謎に包まれた「女性器」の持ち主の正体が判明!

2018年10月11日(木)17時10分
西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)

(パリ・オペラ座の元バレリーナで、高級娼婦だったコンスタンス・クニョー)


今まで「世界の起源」のモデルの推測には、様々な説があった。

なかでも最も可能性が高いと言われていたモデルは、この絵が描かれた1866年の夏に、クールベの愛人だったアイルランド人のジョアンナ・ヒファーナンだ。しかし、絵に描かれた黒々とした陰毛と、ヒファーナンの赤毛が一致しない点が疑問視されていた。一方で、クニョーの黒い髪色は、この絵のモデルの黒い陰毛と合致する。

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「世界の起源」制作のきっかけは、元外交官の「エロティック」絵画収集

謎に包まれたクニョーだが、一体どんな女性なのだろうか。

ニューヨーク・タイムズの報道によると、クニョーは1832年にフランス北部で生まれ、貧しい子供時代を送ったのち、パリ・オペラ座で端役として踊りはじめる。舞台上の彼女の踊りは、「優雅だ」と批評家から絶賛された。しかし、20代後半で膝のケガにより舞台を引退。オスマン帝国の元外交官ハリル・シャリフ・パシャの愛人になり、女優や高級娼婦たちとともに、当時の新聞に頻繁に名前が掲載された。しかし晩年は、チャリティー活動に精を出し、75歳で亡くなるまで、パリのロワイヤル通りのアパルトマンで暮らした。

そんなクニョーがクールベの絵のモデルになったのは、当時愛人だったオスマン帝国の外交官パシャの要望によるものだった。当時、アングルの「トルコ風呂」など、官能的な絵画コレクションを収集していたパシャが、自分の愛人をモデルに「世界の起源」の制作をクールベに依頼したのだ。

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しかし、パシャがこの絵を所有したのは束の間だった。

仏週刊誌「パリマッチ」によると、「世界の起源」は、1995年にオルセー美術館に展示されるまで、ドラマチックな運命を辿ることになったと言及。

パシャはわずか2年間この絵を所有した後、骨董商のアントワーヌ・デ・ラ・ナルドに売ってしまう。その後、ユダヤ系ハンガリー人、フェレンツ・ハトヴァニ男爵の手に「世界の起源」は渡り、ブダペストへ。第二次世界大戦末期には、ソビエト軍により略奪されるものの、当時フランスに住んでいたハトヴァニがこの絵を買い戻す。そして、1955年には、有名な仏精神分析学者のジャック・ラカンが購入。パリ郊外の別荘に「世界の起源」を飾り、時にはピカソやマルセル・デュシャンなどのアーティストを呼んで披露した。ラカンの没後、オルセー美術館にこの絵が展示されることになり、今日に至る。

2011年には、フェイスブックは同サイトでのこの絵の投稿を「ポルノグラフィー」と捉え、裁判沙汰にもなった。152年間衝撃を与え続けてきた「世界の起源」は、数世紀を経た今も、まだまだ新たなスキャンダルを起こしそうだ。

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ayananishikawa-01.jpg[執筆者]
西川彩奈
フランス在住ジャーナリスト。1988年、大阪生まれ。2014年よりフランスを拠点に、欧州社会のレポートやインタビュー記事の執筆活動に携わる。過去には、アラブ首長国連邦とイタリアに在住した経験があり、中東、欧州の各地を旅して現地社会への知見を深めることが趣味。女性のキャリアなどについて、女性誌『コスモポリタン』などに寄稿。パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、ヨーロッパの難民問題に関する取材プロジェクトなども行う。日仏プレス協会(Association de Presse France-Japon)のメンバー。
Ayana.nishikawa@gmail.com

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