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難民問題

救助を求める人に背を向けるのか? 激しいジレンマを描いた映画がヒットするドイツ

2018年09月27日(木)15時00分
河内秀子(ドイツ在住ライター)

2018年ベルリン国際映画祭では観客賞他を受賞した映画『ステュクス』 (c) Zorro Film

<難民問題に揺れるドイツでギリシャ神話の「死の川」という題名を冠した映画が大きな話題になっている>

2018年に入ってから、地中海で溺死・行方不明になっている難民の数は1500人。地中海ルートからの難民の数自体は前年度に比べ半減、一昨年に比べて約5分の1になっていることを考えると、その割合は過去最悪だという。(国際移住機関(IOM)調べ、独ツァイト紙より)

今月初めにも、地中海リビア沖で難民を乗せたボートが沈没し、100人以上が亡くなった。このボートに乗っていたのは、アフリカ諸国からヨーロッパを目指した難民や移民と見られる。リビアの沿岸救助隊が到着したが全員の救助には間に合わなかった──。

難民の数自体は減っていてもEU各国の規制は厳しくなっており、監視の目をかいくぐろうとするため、ルートはより危険なものになっているのだという。

他のEU諸国とは異なり、新移民法によって開放的な難民政策を進めようとしているのがドイツのアンゲラ・メルケル首相だ。しかし、昨年の総選挙では反難民等を唱える右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大躍進を果たした。今年8月には難民申請者がドイツ人男性を刺殺した容疑で捕まるという事件をきっかけに極右を中心とする難民排斥の大きなデモが勃発した。ドイツでは今、難民をめぐる議論の溝が深いことが露見している。

【参考記事】ドイツ総選挙 極右政党「ドイツのための選択肢」94議席の衝撃 問われる欧州の結束

ドキュメンタリーのような映像

激しく揺れ動く今の状況を受けて、大きな話題となっている映画がある。9月頭にドイツ国内で封切られた『ステュクス(原題はStyx)』。美しい自然を求めて旅に出た一人の女性の激しい葛藤を描いた、ヴォルフガング・フィッシャー監督作品だ。

「ステュクス」とは、ギリシャ神話に登場する現世と冥界とを分けるとされる「死の川」のこと。この物語の主人公は、ドイツで救急医として働く女性、リケ。一人ヨットで、豊かな自然が残る地を目指して海へと漕ぎ出した彼女は、嵐に巻き込まれ、それを乗り越えたところで、難民を乗せて沈没しかかっている船に遭遇してしまう。彼女の小さなボートでは、全員を乗せることは不可能だ。

無線で救助要請をするものの、周囲の船は自分の仕事があると助けてくれず、彼女のボートでの救助にも許可が下りない。目の前で溺れそうになっていた男の子をなんとか助けると、彼は家族も助けてくれと懇願する......。

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