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サウジアラビア

「女子力」解放! サウジのファッション革命から見える国の明暗は...

Open Sesame: Saudi Fashon

2018年07月19日(木)12時00分
辻上奈美江(上智大学准教授)

一方、同性間では厚みのあるネットワークが構築されている。男性が結婚相手を探す際にも、女性間のネットワークが重要となる。女性だけのパーティーや結婚披露宴で、結婚適齢期の息子を持つ母親がひそかに結婚相手を探すことに躍起になる。だからこそ女性だけの空間でも、彼女らは美を競い合う。

実は、国内外一流のブランドが参加した点では4月のファッションウイークは初の試みだったが、ここ数年、「チャリティーイベント」と銘打ち、富裕な女性を対象にしたファッションショーが開催される機会も徐々に増えていた。サウジ発のブランドもソーシャルメディアや国内での店舗展開を通じて知られてきている。

ファイサル改革への回帰

学校や職場の多くが男女別のサウジアラビアは「男女隔離」社会と言われてきた。だが隔離は歴史的にみて、全土で連綿と維持されてきたわけではない。

隔離が強化されたのは80年代だ。70年代、石油ブームに乗じて開明的なファイサル国王が近代化政策を推進。なかにはテレビ導入など、保守的な国民には受け入れ難いものもあった。

ファイサルは75年に甥の王子に暗殺される。79年には「救世主」を名乗る過激な集団が聖地メッカの大モスクを占拠し、政府は事件の鎮圧に2週間以上を要した。事件の背景には王家のイスラム信仰に対する疑問もあった。

そうした反省もあり、80年代にはイスラム教の影響力が高まる。男女隔離や女性のベール着用が強化された。同時期に大規模な人口移動で都市化が進んだことや、近代化推進のために外国人労働者が増加したことなども、国民のアイデンティティーとしてイスラムの価値を高めた。

それまでは、黒い長衣の習慣がなかった地域もあるようだ。文化人類学者の片倉もとこが撮影した60年代末から70年代初めの遊牧民(下写真)を見ると、当時の女性が屋外でもカラフルな衣装を着用していたことが分かる。

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(c)片倉もとこ

現在の改革の主導者であるムハンマドは今年3月、米CBSの取材に応じて、79年以前の社会こそサウジアラビアが回帰すべき「普通の生活」だと主張した。男女が同席できる映画館新設やサッカースタジアムへの女性の入場許可、女性の自動車運転にムハンマドが積極的なのは、そんな社会こそ正常だと見なしているからだろう。だが過去40年近く男女隔離に慣れ親しんだサウジ人の中には、隔離こそ正常と見なす人もいる。

4月のファッションウイークでキャットウオークを観賞できるのは女性だけだった。映画館やサッカースタジアムでは男女混合が許されたが、女性モデルがステージを歩くファッションショーは「女性の商品化」と密接に関わっていることが問題視されたのかもしれない。

6月に開催された別のファッションショーでは男性の入場が許可された。だが女性モデルは不在で、ドローンにつるされたドレスが会場内を無機質に飛び回った。会場の男性たちはショーには上の空で、スマートフォンに夢中のようだった。遠巻きにソファに腰掛けている女性客も、飛び交うドレスに強い関心を抱いていないように見えた。入場チケットの売れ行きはよくなかったそうだ。

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