最新記事

アメリカ社会

わが子を1人で遊ばせるのが児童虐待?

娘を1人で公園に遊びに行かせた母親が逮捕されたことで、アメリカで巻き起こった「ネグレクト」議論

2014年7月17日(木)15時52分
ジェシカ・グロース

誰もいない公園 子供が行方不明になる事件が大々的に報じられているのは確かだが BigStock

 サウスカロライナ州在住のデブラ・ハレル(46歳)は、9歳の娘を公園へ1人で遊びに行かせた。娘には緊急時に母親に連絡できるよう、携帯電話を持たせた。そして3日目、誰かが娘に「母親はどこにいるのか」と尋ねた。娘は、母親は仕事に行っている、と答えた(ハレルはマクドナルドで働いている)。

 その結果どうなったか? ハレルは「子供に対する不法行為」で逮捕され、身柄を拘束されてしまった。娘は今、社会福祉当局に保護されている。

 この件について多くのコメンテーターは、逮捕は行き過ぎだと見ている。筆者も一市民として、警察のやり過ぎに憤っている。9歳の娘を保護することは得策だったのか? そして自分も子供を持つ親なだけに、ハレルが逮捕されたことに恐怖を感じている。比較的に安全と思われることをしても、それが時代遅れだったら逮捕されるとしたら、どうやって適切に子供の世話をすることができるのだろうか。

 ペンシルベニア大学のドロシー・ロバーツ教授(法学)に、各州法が保護者の行為について詳細を規定しているかどうか尋ねてみた。何歳の子供をどれくらい1人で放置したら、それは犯罪だ──といった具合に。ロバーツはメールで次のような返事をくれた。


 簡単に言えば、アメリカ全州で児童虐待に関する法律があり、ネグレクト(育児放棄)を定義している。しかしいずれも定義はあいまいで詳細は規定されていない。大抵の場合、ネグレクトには適切な保護監視を怠ることが含まれている。しかし裁判官や陪審員は、何が適切な行為にあたるのかをどう決めるのか? 私が知るどの法律も、年齢や監視の怠慢の本質について正確には規定していない。


 そして明らかに、社会的偏見が今回の逮捕の背景にはある。ハレルはアフリカ系で、そもそもハレルがこうした状況に陥った背景には社会階層上の要因がある。ニューヨーク誌のジョナサン・チェートは、90年代の社会福祉改革によって、シングルマザーたちは満足に子供の世話ができないような低賃金、フルタイムの仕事に追い込まれた、と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏が第3政党計画にブレーキと報道、当人は否定

ワールド

訪日外国人、4.4%増の340万人 7月として過去

ワールド

中国の7月原油輸入、ロシア産が増加 米国産は2カ月

ビジネス

日経平均は続落、4万3000円割れ 利益確定売り優
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中