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バカ売れ「無人機おもちゃ」で大騒ぎ

アマゾンでバカ売れのミニチュア無人機は、ハイテク戦争が欧米文化の一部になった証し

2013年3月27日(水)15時11分
ライアン・ギャラガー

3歳児向け玩具? 無人殺人機を子供に与えるなんて、と批判殺到だが Courtesy May Cheong Group

 パキスタンやイエメンで「標的を絞った殺害」に使用され、政治的に物議を醸している無人機。そのおもちゃが登場し、通販サイトのアマゾンで売れに売れている。

 問題の商品は長さ9センチ、幅15センチほどのミニチュアのプレデター(写真)。対象年齢は「3歳児以上」と表示されている。親たちからは、幼児のおもちゃには「不適切」との抗議が高まる一方、「空飛ぶ死のロボットはチビッ子の最高の友達」といった皮肉の声も飛び交っている。

 一時期は「在庫切れ」の表示が出ていたが、アマゾンに問い合わせたところ、販売を中止したわけではないという。それでも入荷が間に合わないのか、今は出品者を通じて45〜200ドル余りのプレミアム付き価格(通常価格は5〜10ドル)で販売されている。

 アメリカ国内で偵察を目的に無人機が使用されていることは、世論の猛反発を食らっている。オバマ政権が外国で無人機による暗殺を重ねてきたこともあまり評判がよくない。

 こうした状況では、親から販売自粛を求める声が寄せられるのは当然だろう。予想外だったのは、嫌みたっぷりのふざけたコメントがアマゾンのレビュー欄に殺到したこと。例えば──「まさに史上最高のおもちゃだ。これでノーベル平和賞受賞者の気分になれる。殺害したい標的リストを手にホワイトハウスに座っている気分だ!」

「ただのおもちゃとバカにしてはいけない。うちの7歳の息子が校庭でこれを飛ばしたら、パキスタン人の子供の目に激突した。なかなかやるじゃないか」

 一方で好意的なレビューも寄せられている。「無差別の『遠隔操作による殺害』用の兵器だなどと言って、このおもちゃに反発する人は多いだろう。結構な理屈だが、現実には無人機のおかげで米軍の兵士は危険な任務を免れている。このおもちゃにも同じメリットがある。子供たちが危険で、時には死を招くこともあるおもちゃの銃で遊ばずに済むからだ」

サブカルに広がる影響力

 今回の一件が物語るのは、ハイテク戦争が欧米文化の一部となったことだ。おもちゃ無人機の製造元は香港の玩具メーカー、美昌グループのカリフォルニア支社。ジェット戦闘機、ステルス爆撃機、攻撃ヘリなどを取りそろえた「テイルウィンズ」というシリーズの1つとしてプレデターを出した。

 現実の戦争でも、無人機は有人機に取って代わりつつあり、各国政府は無人機技術の開発に莫大な予算を投入している。今後はおもちゃに限らず、ファッションから美術作品まで無人機のモチーフがあちこちに登場するかもしれない。

 例えば、コロラド州在住のウエブアーティスト、ラジーブ・バスが開発したアプリ。PC上でバーチャルな無人機の色や模様を自分でデザインし、グーグルのストリートビューの画面に貼り付けて、PCの壁紙などにできる。

 ピュー・リサーチセンターの調査では、「パキスタン、イエメン、ソマリアなどの過激派を標的に無人機でミサイル攻撃を行うこと」に賛成するアメリカ人は56%。反対する人は26%にすぎなかった。

 調査の前にメディアにリークされた司法省の極秘文書には、アルカイダとの関係が疑われるアメリカ市民を無人機で殺害しても法的に問題はないとの解釈が書かれていた。それでも、この調査結果が出たのだ。

 近い将来、アメリカ中の子供たちがクリスマスに欲しいものリストのトップに無人機のおもちゃを挙げるようになるかもしれない。さしずめ、2番人気は無人機を遠隔操縦するGIジョーの人形だろう。

[2013年3月19日号掲載]

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