最新記事

米大統領選

ロムニーを自滅させる共和党という悲劇

問題は、今日のアメリカ社会の現実を把握せず、抑制の利かなくなった共和党の各グループにある

2012年11月2日(金)15時03分
マイケル・トマスキー(本誌コラムニスト)

操り人形 富裕層からネオコンまで党内「過激派」の突き上げを食ってきたロムニー Brian Snyder-Reuters

 失言と失態を繰り返す共和党の大統領候補ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事を、保守派のコラムニストが寄ってたかってこき下ろしている。確かに本人にも落ち度はあるし、その性格にも難ありと思うが、すべてが彼の責任というわけではない。責任の多くは、思想的にアメリカ社会から孤立し、自制心を失っている共和党内のさまざまな政治勢力にある。

 大統領選に出馬したときから、ロムニーは党内の自滅的な4つのグループの機嫌を取らなければならなかった。第1に、オバマ大統領のせいでアメリカは年収100万ドル超の富裕層には住みにくい国になってしまったと考える人々。第2に、オバマや有色人種に反感を持つ草の根保守派連合ティーパーティーの白人中高年。第3に、オバマの外交政策が弱腰だと批判するネオコン。最後に、扇動的な保守派ジャーナリストだ。

 この4グループから銃を突き付けられれば、ロムニーはどうすることもできない。ロムニー陣営はすべてのグループを満足させなければならず、このむちゃな試みこそが、まずいタイミングでまずい発言をして翌朝慌てて弁解するというパターンの元凶だ。

 副大統領候補の指名でも同じことがいえる。右派からポール・ライアン下院予算委員長を無理強いされたのだろう。鳴り物入りだったが、人気はイマイチだし、果たして何か役に立っているだろうか?

 資金集めイベントでの「国民の47%はたかり屋」発言も同じだ。その場に居合わせたのは富裕層であり、明らかに前述の第1グループを喜ばすための発言だ。ロムニーの本音だったのは間違いないが、求められた「正解」を語ったのだ。

 すべてロムニーの自業自得であり、非難されて当然だ。しかしそれはロムニーだけのせいではない。もちろん選挙参謀のせいでもない。問題は今日のアメリカ社会の現実を把握せず、抑制の利かなくなった共和党の各グループにある。

 ロムニーよりもうまくやれる共和党候補はほかにはいない。いたとしても、元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュくらいだろうが、3人目の「ブッシュ大統領」はまだ早過ぎる。

 共和党よ、現実を直視せよ。ロムニーは限られた選択肢の中では最適の候補だ。ロムニーがいま苦戦しているのは、共和党自身に問題があるからだ。

[2012年10月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、8月前月比+0.2% 前年比は+2.5%

ワールド

メキシコ司法改革を上院承認、判事公選制に 法の支配

ビジネス

「ザラ」のインディテックス、秋冬物の販売急増 株価

ワールド

ベトナム、上流のダム放流を懸念 中国外務省「氾濫防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 2
    クルスク州「重要な補給路」がHIMARSのターゲットに...ロシアの浮橋が「跡形もなく」破壊される瞬間
  • 3
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」
  • 4
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 5
    運河に浮かぶのは「人間の手」? 通報を受けた警官…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 9
    「生後45日までの子犬、宅配便で配送します」 韓国ペ…
  • 10
    米大統領選でトランプ・バンス陣営を襲う「ソファで…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 7
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中