最新記事

事件

集団セックス殺人被告の狂った応援団

イタリアで性的暴行と殺人の罪に問われた留学生。その無実を訴えるアメリカ人支援者の暴走が国際問題に

2010年9月16日(木)17時49分
バービー・ナドー(ローマ支局)

模範囚が台無し 刑務所では勉学と読書に励んでいるというノックス(中央、09年12月) Alessandro Bianchi-Reuters

 イタリア中部のペルージャで恋人らと共にルームメートに性的暴行を加え、殺害したとして禁固26年の有罪判決を受けたアメリカ人留学生アマンダ・ノックス(23)。母国にはノックスを支援する人が大勢いるが、彼らが入れ替わり立ち代り声高に無実を主張するのを聞くたびに本人はうんざりしているに違いない。

 ノックスはずさんな捜査と茶番と化した裁判の犠牲者だと、熱烈な支援者たちは昨年12月に有罪判決が出る前から確信していた。そしてアメリカのメディアでその点を声高に主張してきた。問題は、アメリカで誰かがノックスの判決は不当だと大騒ぎするたび、遠く離れたイタリアにも影響が及ぶということだ。

 現在ノックスはペルージャの刑務所に収監されており、こうした形で世間の注目を集めることは望んでいない。それどころか周囲の刑務官や受刑者たちによれば、彼女は獄中で勉学と読書にいそしみ、この秋に開始予定の控訴審で不利になるような発言は慎重に避けているという。

 控訴審の判事も陪審もこの裁判をめぐってどんな騒ぎが起きているか、報道を見て知っている。だからいかなる公の場での発言もイタリアの司法制度への批判と受け取られる可能性がある。

 ノックスは刑務所内の売店で働いており、注文に応じて商品を受刑者たちのところに配達しているという。ノックスは「模範囚」だと、ベルナルディナ・ディマリオ刑務所長は言う。「騒ぎを起こすようなことは一切ないし、あまり人付き合いもしていない」

 だが支援者たちは違う。アメリカのメディアで冤罪だとか警察による暴行といった見出しでニュースが報じられれば、それは必ずイタリアでも報じられる。この報道にはアメリカの覇権主義が反映されているとして、イタリアの司法制度を擁護する嫌味たっぷりのコメントと共に――。

無実を信じないのは人にあらず

 07年11月の逮捕以来、そして有罪判決以降も、支援者たちは裁判の関係者でノックスの無実を心から信じようとしない人すべてを攻撃の対象としてきた。ノックスの義父であるクリス・メラスは、裁判長の述べた判決理由を「架空の小説」のようだと一蹴。支援団体「アマンダの友」は裁判の間、主任検事のことを「精神的に不安定」だと繰り返した。

 有罪判決の直後、ノックスの故郷ワシントン州選出のマリア・キャントウェル上院議員は、ノックスの身柄送還をヒラリー・クリントン国務長官に働きかけると約束し(クリントンは不介入の姿勢を明らかにしている)、不動産王のドナルド・トランプはイタリア製品もイタリアそのものもボイコットする始末。「アマンダは国家間の大問題になった」と、イタリアのレプブリカ紙は報じた。

 つい最近も、FBI(米連邦捜査局)のスティーブ・ムーア元捜査官が「ノックス有罪の印象を強めるため、証拠を操作した」とイタリア当局を非難。その根拠としてムーアは「手を加えていない証拠」を元に行なった「独自の捜査」を挙げた。本誌が確認したところ、イタリアの科学捜査当局も、被害者の検死を行なった検死官も、ペルージャ警察の殺人課も、ムーアから捜査資料の開示を求められたことはないと回答。ムーアの言う「手を加えていない証拠」の出所に疑問を投げかける結果となった。

「彼の名はムーア。かの有名な007と同じだ」と、イタリアのメッサジェッロ紙は皮肉った。「刑務所の中ではノックスが、ムーアという名の助けの神を待っている」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終

ビジネス

トランプ大統領、内国歳入庁長官を解任 代行はベセン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 3
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トップ5に入っている国はどこ?
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 9
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 10
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中