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集団セックス殺人被告の狂った応援団

2010年9月16日(木)17時49分
バービー・ナドー(ローマ支局)

 世間の注目を集める事件では、外野があれこれ推理するのは当然の成り行きだ。だがノックスの支援者たちの行為は、たとえ善意から出たものであっても逆効果をもたらしている。例えば支援者がイタリアの司法制度を非難すれば、イタリア人は防御的になって、かたくなに自国の制度の正当性を主張するようになる。

DNAの証拠より厄介な存在

 支援者たちがもたらす害はある意味、事件現場にノックスが残したDNAの証拠より厄介だ。08年10月、イタリアの判事はノックスの在宅逮捕を認めなかった。理由は「ノックスを故郷に連れ帰るためなら何でも」やりかねない熱烈な支援者たちの行動だった。1年間に及んだ一審の裁判では、検事も陪審員たちもアメリカからの批判に「腹が立った」と何度も本誌に語っていた。

 有罪判決が出たときには、アメリカでは多くの人が不当な判決だと騒いだ。だがノックス自身は、自分に対する扱いは公正だったとイタリアの国会議員に語った。弁護団によれば、これはイタリアの人々の気持ちをなだめるとともに自分を守るための手段でもあった。「私は今もイタリアの司法制度を信頼しています」と、ノックスはバルテル・ベリーニ下院議員に述べた。「私の権利も尊重されました」

 ノックスのイタリア人弁護団は支援者たちの非難や声高な主張とは常に距離を置いてきた。「アメリカではこの裁判をめぐって多くの批判が聞かれる。だがイタリア国内でアマンダを擁護できるのは彼女の弁護士だけだということを忘れてはならない」と、弁護団の1人ルチアノ・ギルガは言う。「アメリカの人々はここペルージャでアマンダの代理人を務めているわけではないし、絶え間ない(アメリカの支援者たちの)批判も彼女の意見を代弁しているわけではない」

 だがアメリカでは、この裁判をノックスに好意的な立場から報道した2つのテレビ番組が、エミー賞のニュース・ドキュメンタリー部門にノミネートされている(発表は9月27日)。1つは一審判決の出た日の夜のABCの報道番組「20/20」。もう1つはCBSのニュース番組「48アワーズ」内で放映された「アメリカ娘、イタリアの悪夢」だ。

 10月1日にはノックスを裁く別の裁判が始まる予定だ。彼女は07年11月に警察の取調べを受けた際に「後頭部を2回」叩かれたと主張したことで、名誉毀損の罪に問われているのだ。もし有罪となれば刑期はさらに6年延びることになる。

 この秋には殺人事件の控訴審も始まる。審理に参加するのは有罪判決以降のさまざまな報道に触れてきたこと間違いなしの新しい陪審員たちだ。

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