最新記事

米司法

9.11公判、裁かれるのはCIA

同時テロ容疑者の訴追が決まったが、弁護側に拷問疑惑を追求されるCIAは窮地に立たされる

2009年11月16日(月)16時28分
マイケル・イジコフ(ワシントン支局)、ダニエル・クレードマン(米国版副編集長)、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

主犯格 ニューヨーク連邦裁判所に起訴されることが決まったモハメド(この似顔絵はグアンタナモ基地での軍法委員会で書かれたもの) Reuters

 今年に入り、米司法省の検察官が9.11テロの首謀者とされるアルカイダ幹部ハリド・シェイク・モハメドら5人の訴追準備に取り掛かった時、エリック・ホルダー司法長官は完璧な立件を命じた。「勝てない裁判にはするな」

 しかし検察団は大きな問題を1つ抱えていた。CIA(米中央情報局)による「行き過ぎた尋問」に触れることなく、どうやって裁判を進めていくかだ。検察団は何カ月間にも渡って証拠を精査し、水責めなど手荒な尋問による供述やその他の違法な手法が使われていない「クリーン」な証拠だけで事件を組み立てなおしたという。

 検察は拷問疑惑に神経質になるあまり、FBI(米連邦捜査局)の「公正」な尋問による証言さえ、証拠として使わないことを決めた。FBIの取り調べがCIAの手荒な尋問で引き出された情報を参考にしていないか、確信が持てなかったからだ。

 ホルダーは11月13日、モハメドら5人を、ニューヨークの世界貿易センタービル跡地に近い連邦裁判所に起訴する方針を明らかにした。「拷問で得られたもの以外の証拠はたくさんある」と、ある司法省幹部は語る。送金や電話の通話記録、パソコンデータ、ビデオ画像などだ。

死刑求刑でも情状酌量か

 しかしだからといって、この裁判が容疑者への拷問に関する法律論争から逃れられるわけではない。たとえ司法省が拷問疑惑に触れられないように立件しても、弁護側は巧妙に虐待を示す証拠を持ち出し、証言の有効性を問いただすだろう。容疑者を尋問したCIA職員への接触も試みるはずだ。

 弁護側には、拷問疑惑を持ち出し、取り調べ時の容疑者の精神状態を争点にする権限がある(別の容疑者の裁判では、鎮静剤によって容疑者は正常ではなかったと弁護側が主張している)。判決が下される段になれば、検察側が死刑を求刑しても情状酌量が適用されるかもしれない。

「CIAを裁判にかけるようなもので理解できない」と、情報機関の元幹部職員は憤る。ホルダーらはそうした事態は避けられると考えているようだが、内情に詳しいある議会関係者は首をかしげる。「この裁判にリスクがないと考えている連中は、公判の流れを分かっていない」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省

ワールド

再送トランプ氏、中国の関税合意違反を非難 厳しい措

ビジネス

FRB金利据え置き継続の公算、PCEが消費の慎重姿
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中