最新記事

米政治

オバマ医療保険改革演説の通信簿

国民の無関心や共和党が広めた「嘘」に苦しめられるオバマ米大統領が、挽回をかけて議会演説に臨んだ。果たしてその出来は?

2009年9月11日(金)18時13分
ケイティー・コノリー(ワシントン支局)

起死回生 オバマの議会演説は十分評価できるものだったが、世論にどう影響するかは未知数(9月9日、ワシントン) Yuri Gripas-Reuters

 9月9日、バラク・オバマ米大統領は米議会の上下両院合同本会議で、医療保険改革の詳細を説明する演説を行った。議場の雰囲気は、華々しかった2月の就任演説と大差ないように思えた。オバマが姿を現すと、選挙戦の時のようにロックスターさながらの歓迎を受けた。

 しかし、すべてが同じだったわけではない。オバマが打ち出した政策がここまで賛否を分けたことはなかった。戦いの決意を固めて登場したオバマの口調は力強く、時に簡素で、終盤に入るまで得意の熱弁も披露しなかった。

 果たして今回の演説はうまく行ったのか? 本誌は先日、医療保険改革の議論で世論を味方につける6つのアドバイスを提案した。今回の演説の出来がどうだったのか、項目ごとに検証しよう。

■シンプルで心に残る表現を繰り返す(評価:B+)

 オバマは医療保険改革に関して広まっている「嘘」に真っ向から挑み、国民の恐怖感をあおる戦略と、それを広めた面々を厳しく非難した。

 名指しこそしなかったが、オバマの改革は「死の審査会」を生むとしたサラ・ペイリン前アラスカ州知事の発言を一蹴。人工妊娠中絶を政府が援助するとか、不法移民も医療保険に入れるといった嘘も厳然と否定した。演説中、反発する議員からヤジが飛んだが、おかげでオバマが反論する場面はテレビで繰り返し放送されるだろう。

 しかし、オバマは「死の審査会」に取って代わるようなキャッチフレーズを打ち出せなかった。「口げんかの時間は終わった」など、それらしい表現はいくつかあったが、反対勢力の嘘ほど世論の感情に訴える力はなかった。

■今の保険に満足している国民に恩恵を説明する(評価:A-)

 この点ではオバマは前進した。すでに保険に入っている人は保険を変える必要がないことをはっきりさせた。

さらに重要なのは、改革を行わない場合に生じる影響を熱心に語ったことだ。「何もしなければどうなるか、皆さん分かっているはずだ」とオバマは呼びかけた。「財政赤字は膨らみ、破産する家族や倒産する会社がますます増える。病気にかかってどうしても保険が必要な時に、医療保険がないという国民も増加する。その結果、より多くの人が命を落とす」

 演説でオバマは、イリノイ州のある男性のケースを例にあげた。この男性は化学療法を受けている途中で、自分でも気づいていなかった胆石について保険会社に知らせていなかったという理由で、保険を失った。その結果、治療が遅れてしまい、男性は死亡した。

 こうした話は説得力があるが、オバマはこれまでも似たような話を何度もしてきた。なのに効果は上がっていないことを考えると、人々の心に届いたのかは疑問だ。ただし、努力は評価できる。

■公的医療保険について立場を決める(評価:B+/A-)

 パブリック・オプション(公的医療保険制度)に関する自分の考えについて、オバマはこれまでで最も包括的な説明をした。政府が医療制度全体を運営する公営医療制度には懸念を示した一方で、公的医療保険制度がなければ保険会社同士の競争や責任の遂行が損なわれるという考えも明らかにした。

「公的医療保険を提供すれば、保険会社の業務の透明性を維持できる。公的医療保険はあくまでも無保険者が対象で、現在保険に入っている人には何ら影響しない」と、オバマは述べた。

 ただし、公的医療保険制度を改革案から外す選択肢も除外していない。「医療保険に加入できない国民がいれば、政府が選択肢を提供する」というのが、オバマにとっての最低ラインだ。あいまいさが残っているため1~2点減点。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア決算に注目、AI業界の試金石に=今週の

ビジネス

FRB、9月利下げ判断にさらなるデータ必要=セント

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 6
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 7
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 8
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    株価12倍の大勝利...「祖父の七光り」ではなかった、…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中