最新記事

アメリカ政治

オバマ医療改革はずっこけるかも

オバマが懸命に議会に売り込む医療保険改革法案は、「改革」とは程遠い代物だ

2009年7月21日(火)19時17分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

転覆寸前 医療保険改革の必要性を熱く語るオバマだが(7月20日、ワシントン) Jason Reed-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は政治の波に乗るコツを心得ている。サーフィン大国のハワイで育ったせいだろう。彼は自分の手で歴史をつくることを切望してもいる。学生時代ハーバード・ロー・レビュー誌の編集長を務めたせいだろう。この経験のおかげで、ケニアとカンザス州出身の両親の息子が大統領になって新たな歴史をつくれることに気付いたからだ。

 オバマは今、この2つの能力を同時に試されている。絶好のタイミングで波に乗って歴史をつくれるのか。

 実のところ、オバマはサーフボードから今にも落っこちそうだ。原因は医療保険改革。タイミングがよくないうえ、少なくともこれまで公開された彼の計画を見る限り「改革」と呼べる代物ではないからだ。

 機運を逃すのを恐れるオバマとその側近は、8月の議会休会前に上院が1000ページ以上の法案を通さざるを得ないように切迫感をあおっている。私はこの件に深く首を突っ込んでいる民主党議員に、上院は法案を通すだろうかと尋ねてみた。

「その確率はますます小さくなっている」と彼は言う。医療改革が死んだということではない。ただ、これだけは言える。今秋には医療改革をめぐる激しい国民的議論が起こり、その結果がどうなるかはまったく分からないのだ。

 タイミングが悪い理由は、この不況。おかげで連邦予算にはより大きな負荷がかかり、注目が集まる。数十年先には財政赤字を解消する(いわゆる「上昇曲線を折り曲げる」)はずの医療改革も困難になっている。

 オバマは医療保険改革を道徳面と財政面の両方から売り込む必要があることを分かっている。つまり国家破綻に陥って再起不能になるのを回避するには、医療費を制御するしかないということだ。

保険会社をもうけさせる法案

 だが、これまで議会に提出された3つの法案は、いずれも財政赤字を解消するどころか増大させる。無党派層を中心に長期の財政赤字に対する不安が深まっているため、最良の状況下でも実現困難な医療改革がさらに難しくなっている。

 ロバート・ギブス大統領報道官は、3法案には「上昇曲線を折り曲げる」条項が散りばめられているが、機能させるためには1つの法案に統合させる必要があると私に語った。だが別の政治的問題がある。「上昇曲線を折り曲げる」方策は、さらなる歳出削減ではなく、増税による歳入増なのだ。

 オバマは自らの最終案に予算がつくようにすると誓っている。つまり長期的な財政赤字を増やさないというのだが、これはオバマ自身やピーター・オルスザグ行政管理予算局長が当初目指していたものからは程遠い。少なくとも「下降曲線」ではない。もしオバマが医療改革が財政的に不可欠だと主張するつもりなら、医療費削減によって節約できる額を示すべきだ。これまでのところ、そんな数字は出されていない。

 医療保険改革の波が衰えつつある2つ目の理由は、これまでに出された3法案が本来の意味での「改革」とは言えないことだ。

 当初の狙いは、過度に複雑なシステム全体を再考し、医療改善と支出削減を同時に達成するため、国民の医療に対する考え方を抜本的に変えようというものだった。実現の道はあるはずだ。だが3法案はめちゃくちゃなシステムを見直すというよりも、関係業界の買収を狙っているようにしか見えない。

 保険会社がそのいい例だ。確かに、保険会社は既往疾患のある人にも保険を売るように義務付けられるだろう。だが業界はより厳しい規制と引き換えに莫大な見返りを手にする。政府がすべての国民に保険商品を買えと命じるからだ。保険業界が議会の動きを賞賛する広告を出しているのもうなずける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東京コアCPI2月、制度要因で2%割れ 日銀は基調

ワールド

ヒラリー氏、エプスタイン問題巡り「情報なし」 下院

ビジネス

語学アプリの米デュオリンゴ、予約販売額の見通しが予

ワールド

小売販売1月は前年比1.8%増、自動車販売や食品値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルーの大スキャンダルを招いた「女王の寵愛」とは
  • 4
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 5
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 6
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 7
    「まるで別人...」ジョニー・デップの激変ぶりにネッ…
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    【和平後こそリスク】ウクライナで米露が狙う停戦「…
  • 10
    「3列目なのにガガ様が見えない...」観客の視界を遮…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 5
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中