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オバマを苦しめる倫理観の足かせ

拷問問題への煮え切らない対応がイメージを脅かす

2009年4月27日(月)18時48分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

負の遺産 グアンタナモ米海軍基地で尋問室に連行される収容者。ブッシュ政権時代の拷問問題がオバマを苦しめている(2002年) Marc Serota-Reuters

 政治の世界では、倫理観は強力な武器だ。適切なタイミングで倫理の旗を掲げれば、人々の心を動かし、選挙に勝利できる。

 だがいったん選挙が終われば、その旗は邪魔な存在になりかねない。旗を消し去るわけにはいかないが、気をつけないと足元をすくわれる。

バラク・オバマ米大統領が置かれている状況は、まさにそれだ。

 大統領選の最中、オバマは対テロ戦争やイラク情勢について倫理的な(そして現実的な)懸念を表明することで大きなチャンスをつかんだ。戦略的にも道義的にもこの戦争は悪だ、と彼は言い切った。戦争というレンズだけで世界を見ること、つまり世界を白か黒か、敵か味方かに分断するのは、戦略的にも道義的にも間違っている、と。

 オバマは諸外国や他民族との関係において、より繊細で倫理的で人道的なアプローチを取ると約束した。彼を大統領の座に押し上げた大きな要因の一つが、この約束だった。

 オバマは今、キューバのグアンタナモ米海軍基地での拷問問題についても、その倫理観を徹底的に貫くよう期待されている。ブッシュ政権下でテロ容疑者に対して行われた水責めなどの尋問手法は、オバマが批判し、拒絶してきた世界観そのものだ。

ブッシュの責任は問わない

 それなのに、オバマの対応は煮え切らない。オバマらしくない不明瞭なメッセージの代償は大きい。

 もちろん、自らの倫理観に沿った対応もないわけではない。水責めなどの尋問手法は情報収集としては非生産的で、外交的に逆効果であり、そもそも間違っているとして禁止を表明した。これは大統領の「倫理観や価値観の表れだ」と、報道陣を集めた4月22日のブリーフィングで政府高官は言った。

 だが、そうした尋問手法を許可し、実行したブッシュ政権高官やCIA(中央情報局)職員に対して同じ倫理基準を適用することについては、オバマは今のところ拒否している。

 水責めの指示を合法だと信じて従った担当者は訴追されるべきではない、とオバマは繰り返し語っている。指示以上の行為を行った者や、問題の尋問手法を許可した政府高官(ブッシュ前大統領を含む)の責任についても、オバマは意図的に曖昧な発言を続けている。独立調査委員会の設置にも乗り気でない(受け入れるかもしれないが)。

 この問題はエリック・ホルダー司法長官の判断に任せると、オバマは表明した。ただし、「ほとんど」(すべてではない)の意思決定をホルダーに任せる、という表現だったが。

 明瞭なメッセージを発すると自負してきたオバマ政権にしては、なんともわかりにくい表現だ。22日のブリーフィングのテーマは「政権100日目」だったが、冒頭から拷問に関するメモや法的問題についての厳しい質問が浴びせられた。

現実的な問題を優先した

 高官は苛立ちをあらわにした。有権者にとっては尋問手法の話より経済のほうがずっと重要な課題だと、その高官は言った。オバマは問題の尋問手法を禁止するという最重要課題に取り組んだ、アメリカ国民は過去にこだわるより未来を考えたいはずだ、と。

 イラク戦争反対派の間には「鬱積したエネルギー」があるが、オバマ政権が予算案を通し、医療制度改革などの国内問題に取り組もうとしている今、そうした感情は「対立をあおり、気が散る」要因になると、高官は語った。

 だが、オバマの倫理観に魅力を感じた支持者の多くにとっては、倫理上の問題に「時効」などない。

 中世の昔から拷問と認識されてきた水責めという手法をブッシュ政権が選び、正当化したのは無知と無能さゆえ、という寛大な解釈もできなくはない。だが水責めは、アメリカが批准している国際条約にも、国内法にも明らかに違反している(ちなみに国内法でも国際法でも、指示を合法だと思ったからといって実行者が免責されることはない)。

 法律を厳密に適用しないことについて、オバマはどう説明するのか。答えは倫理観ではなく、現実的な事情だ。

 私たちは前に進まなくてはならない。より大きく、より差し迫った課題に直面しているのだから。CIAの士気と権威を守る必要もある──。どの説明も、選挙戦をスタートさせたわずか数年前にオバマが人々の心を揺さぶった倫理観とは似ても似つかないものだ。

 オバマの政治姿勢を問われた高官は、大統領は自身を「敬虔な非イデオロギー論者」とみなしていると語った。「うまくいくことをやろうとしている」

 その通りだろう。問題は、選挙戦を始めたころのオバマはそれ以上のことを語っていたということだ。

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