ミシェルという存在の重さ
ファッションも地雷原に
子育てを優先することで、重要課題に取り組むゆとりがミシェルに生まれればいいと私は思う。しかしファーストレディーが政治課題を担うときは、実にむずかしい判断が伴う。医療保険改革を担ったヒラリー・クリントンのように、大きな課題に取り組んで失敗すれば、厄介なことになりかねない。
そこで多くの大統領夫人はローラ・ブッシュのように、識字率向上といった無難なテーマを選ぶ。今のところミシェルは、兵士の家族や、仕事と育児の両立といった問題に取り組みたいと語っている。批判はされにくく、聞こえのいいテーマだ。
ミシェルには、ほかにも厄介なことがある。スラム街の学校の支援など黒人コミュニティーの問題に力を入れれば、自分が黒人だからやっていると思われかねない。ファーストレディーをはじめ多くの専門職の女性たちには「強さ」が求められるものだが、アフリカ系女性の場合は「強さ」がすぐに「怒り」と受け取られがちだ。
ミシェルにとっては、外見も地雷原になりかねない。ファーストレディーの服装は、常にあら探しの対象になる。だからヒラリー・クリントンは、黒いパンツスーツばかり着るようになった。ミシェルのファッションはまだ進化の途上にあり、148ドルの手ごろな服からドルチェ&ガッバーナまで趣味は幅広い。
初めてのホワイトハウス訪問では鮮やかな赤いドレスを着て、思い切った路線でいこうとしていることを示した。しかしこの先、髪形や体形をあれこれ言われるようになったら、無難なファッションに落ち着いてしまうのか。
ミシェルは過去の多くのファーストレディーと違って、スリムで背が高く、スポーツ選手並みの体形を維持している。自称フィットネス中毒で毎朝トレーニングを欠かさない彼女なら、体を大切にすることを黒人女性に教えられるかもしれない。アフリカ系女性は高血圧と肥満の割合が恐ろしく高い。
「彼女を見ると思うの。私には2人の子供がいて、彼女もそう。彼女が自分の外見をかまう時間をつくれるなら、私にもできるはず」と、カリフォルニア州ロングビーチの警察職員タマラ・ロードス(37)は言う。
ブランチの席での会話は、家族や親友の間でもめったに話題にならないところにも及んだ。ミシェルはアフリカ系というだけでなく、肌がとても黒いという点だ。メディアが美の基準を決める時代にあって、ミシェルはファッションモデルや、化粧品のCMに登場する透き通った肌の女優とは似ても似つかない。
黒い肌の大きな影響力
美しさの問題は、長いことアフリカ系の苦しみと怒りの源泉になっている。たいていの場合、「美しい黒人女性」とは、肌の色が薄く、髪が真っすぐで、ヨーロッパ風の顔立ちである場合が多い。
リナ・ホーンやハル・ベリー、ビヨンセといったアフリカ系のスターは、黒人女性の多様な肌の色や顔立ちを代表しているわけではない。こうした美の基準は、私も含めて多くのアフリカ系女性の自尊心を傷つけている。
「雑誌やテレビ番組でミシェルを見ると、肌が黒いと思う」と、カリフォルニア州イングルウッドのチャリシー・ホランズ(30)は言う。彼女の肌も見事なほど濃い。「肌の黒い女性が注目を浴びて、世界中から美しいと言われるのはうれしい。黒人の女の子がそういう場面に触れるのはいいこと」
アフリカでは、皮膚を白くするクリームが大人気だ。使いすぎると副作用の危険がある成分が入っているのに、引っ張りだこだという。アメリカの黒人スラム街にあるドラッグストアには、効力は弱いが似たような薬が並んでいる。
「昔からずっと変わっていない」と語るのは、女優のウーピー・ゴールドバーグ。真っすぐなブロンドの髪と青い目への憧れをテーマにした一人芝居で有名になった。「社会一般でも黒人の間でも、色が白くてヨーロッパ人的な顔立ちが好まれる。そんなのは嘘だとか、今は変わったと私たちは言いたがるけど、そんなことはない。肌が黒いほど理想から遠くなる。とても簡単な話。気持ちがぐちゃぐちゃになる」
一般のアフリカ系女性も、この問題には敏感だ。黒人ラジオパーソナリティーのトム・ジョイナーは番組の中で「次期大統領の妻とその外見は、あなたの投票に影響を与えたか」という質問をした。リスナーの答えは圧倒的にイエスだった。「彼女は普通っぽい感じ」「どこにでもいる女性に見えるのが好感がもてる」といったコメントが相次いだ。
ミシェルはホワイトハウスの住人になる前に、多くのことを成し遂げている。彼女が重要な問題に取り組む決意を固めれば、どんなに素晴らしいことができるだろう。
そのとき彼女がもたらす影響力は、大変なものになる。私と友人たちのブランチのテーブルには、とても載りきらないだろう。
[2009年1月28日号掲載]