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オバマ就任100日を採点する

経済危機の最中に船出したオバマ政権だが、ルーズベルトやジョンソンを彷彿とさせる好調なスタートを切った

2009年4月28日(火)17時52分
ジョナサン・オルター(本誌コラムニスト)

リーダーシップ オバマは危機の時代の大統領にふさわしく、国民の自信を回復させ、アメリカを新たな方向に導こうとしている Jonathan Ernst-Reuters

 バラク・オバマ米大統領の就任後100日間の業績をどう評価したらいいだろう。歴代大統領と比較しながら振り返ってみよう。

 経済危機のおかげで、オバマは1933年のフランクリン・ルーズベルト以降のどの大統領よりもポイントを稼いでいる。オバマ以上の高得点をつけられるのは、リンドン・ジョンソン大統領(65年)くらいだ。

 新しいビジョンを明確な言葉で伝え、議会を動かすという点でも、オバマは高得点だ。ただし、「うまくいくこと」をやるというオバマのモットーを考えれば、通知表の評価を確定させるのはまだ早い。何が本当にうまくいくのか、まだ分からないからだ。

 就任100日目という節目は、ルーズベルト以来、マスコミが勝手に作り上げた「記念日」だ。それでもこの数字に意味があるのは、就任直後の数カ月を見れば、大統領が職を遂行する手腕を備えているかを判断できるからだ。

 実際、入り口でつまづいたら、再び足場を固めるのは容易ではない。政治的には盛り返せても、強力なリーダーシップを手に入れるチャンスは過ぎ去ってしまう。

ニューディール政策との共通点

 ルーズベルトが大統領に就任したとき、国内の銀行はすでにほぼ壊滅状態だった。おかげで健全な銀行だけを再開させることができた。金融危機への対応としては、オバマ政権に残された選択肢よりずっとわかりやすい。

 ルーズベルトも手足を縛られていた。彼自身、ケインズ型の大型公共投資の必要性を当初は十分に理解していなかったからだ。1933年、ルーズベルトは巨額の公共投資に踏み切る一方、財政支出を31%も削減させる(退役軍人の恩給を半減させた)という相反する政策を打ち出した。

 初期のニューディール政策は、オバマの経済政策とよく似た寄せ集め政策だった。ルーズベルトは就任後100日で15本の法案を成立させた。ビールを合法化し、ウォール街に初の規制を課し、失業中の若者に公共事業で職を提供し、銀行預金保険を立ち上げ、労働者の団体交渉権を認めた。

 なかには、くだらないものもあった。とりわけ、全国産業復興法はあらゆる産業にばかげた規制を課す失策だった(ナイトクラブのオーナーが一晩に何度までストリッパーに服を脱ぐよう要請できるかまで規定していた)。

 ジョンソンはケネディの任期を半ばで引き継いだため、大統領選を経た65年の就任後100日間を、ほかの大統領のそれと正確に比較することはできない。

 それでも、社会の形を変える施策を次々に打ち出したという意味では、歴代大統領の誰もジョンソンには及ばない。黒人の投票を促進する投票権法、メディケア(高齢者医療保険制度)の創設、教育への初の連邦資金投入、ヨーロッパ系以外の移民受け入れを促進する移民法......。

 就任直後の功績として対抗できるのは、ロナルド・レーガンの減税(81年)や、ジョージ・W・ブッシュの教育改革法「ノー・チャイルド・レフト・ビハインド(落ちこぼれをつくらない、2001年)」くらいだろう。

 オバマの7870億ドルの景気刺激策も、複数の法案を集めたものだ。アメリカ史上最大規模の減税、50年代の高速道路網整備以来の大規模なインフラ投資、過去に例のない教育への巨額投資。

 共和党の賛成なしで可決されたこの予算案は、アメリカがリベラル寄りに舵をきった表れで、大がかりな医療制度改革につながる流れを形づくっている。さらに毎週のように新たに署名している法案も考慮すれば、オバマはすでにルーズベルトの域に達しているといえる。

「経験不足」の懸念は吹き飛んだ

 恩恵を受ける側の視点で考えるほうがわかりやすいかもしれない。公平な給与支払いを求める女性、健康保険が必要な子供、解雇を恐れる看護師、税還付を求める年収2万5000ドルの労働者、自宅を差し押さえられた人、資金不足の癌研究者、非公開文書の開示を求める歴史家、拷問を受けたくない囚人。誰もがオバマの恩恵を被っているはずだ。

 メディアが大騒ぎしたとはいえ、オバマが大統領として成功する確率は高くなかった。選挙戦を除けばマネジメントの経験はほとんどない(選挙戦での成功が大統領としての業績とリンクしないことはジミー・カーターを見れば明らかだ)。

 だが、オバマは適切な人材を選び、議会やメディア、国民にうまくアピールする術をあっという間に身につけた。気楽な雰囲気のおかげで、間違いを犯しても好意的に受け取られる。

 危機の際のリーダ−シップに何より必要なのは、自信を回復させる手腕だ。ルーズベルトの下でアメリカが資本主義と民主主義への信頼を取り戻したように、オバマも今のところ、国家を新たな方向に導くことに成功している。

 国民も認めている。オバマが大統領に就任した1月から4月にかけて、アメリカが「正しい道」を進んでいると答えたアメリカ人は23ポイント増えた。過去3代の大統領のケースでは、この数字は横ばいか低下していた。

 世論調査の数字は移ろいやすい。ジョンソンのベトナム戦争のように、特に国外で大統領の足を引っ張るトラブルも起きるだろう。

 国内問題でも、医療制度をはじめとする優先課題でオバマが妥協しすぎているという懸念もある。それでも、困難を極めるなか、オバマが確実に地盤を固めていることは確かだ。

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