最新記事
加齢

老人の記憶力は若者と差がない! 「加齢とともに忘れやすくなる」と言われる理由とは

2022年9月4日(日)11時50分
和田秀樹(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

①名刺交換するとき、相手の名前を声に出して読み上げる
これは、Tさんならずとも、多くの人が実践している方法でしょう。名刺をもらったとき、「○○さんですね。よろしくお願いします」と、相手の名前を声に出して読み上げると、目と口と耳という3つの器官から、相手の名前を入力することができるというわけです。

②相手の顔の特徴的な部分に、相手の名前を"書き込む"
私が感心したTさん独特の手法は、「相手の顔の特徴的な部分に、名前を書き込む」という記憶法でした。出会ったとき、まず相手の顔のパーツから、最も印象的な特徴を見つける。おでこの広い人だったらおでこ、口の大きな人は口という具合です。そして、頭の中で、その特徴的なパーツの上に、その人の名前(漢字)を重ねてみるというのです。

広いおでこの上に「田中」さんとか、大きな鼻に「佐藤」さんなどという文字をイメージするのです。すると、その人と再会したとき、顔の特徴に注目するだけで、パーツ上に書いた文字の"残像"が浮かび上がってくるそうです。

クラブのママが「俳優の○○さんに似てますね」という理由

と書きながら、思い出したのですが、以前、クラブのママから、こんな"種明かし"をされたことがあります。

クラブのホステスが、お客に向かって「俳優の○○さんに似ていらっしゃいますね」というのは、お客の気持ちをくすぐるためだけでなく、お客の顔と名前を覚えるためでもあるというのです。なるほど、初対面の人の顔を覚えるため、その人の顔を単純化し、分類するのは有効な方法といえます。漠然とした印象ではなく、「○○に似ている」と分類し、それを言語化してみる。そうすれば、相手の顔と名前を記憶に定着できる確率が大いに高まるというわけです。

ここで、年配者に限らず、誰でも使える記憶のコツについて、おさらいしておきましょう。

心理学では、記憶を「記銘」(入力)、「保持」(貯蔵)、「想起」(出力)の3段階に分けて考えます。「記銘」だけでなく、「保持」「想起」を心がけることも、"脳力"維持にとっては、重要です。「保持」に必要なのは、平たくいえば「復習」すること。記憶を定着させるには、とにかく「復習」することが大切です。

目や耳から脳に入力された情報は、まず「海馬」に一時保存されます。その後、海馬に保存された情報のうち、「必要性が高い」と認められた事柄だけが、「側頭葉」へ転写されるのです。側頭葉は、いわばハードディスクのようなもので、そこに転写されて初めて、記憶として定着します。一方、海馬に一時保存されたものの、その後「必要なし」と判断された情報は、側頭葉へ転写されることなく、海馬からも消えてしまいます。

"あれあれ、それそれ現象"を防ぐにはどうしたらいいか

では、脳が何をもって、その情報が必要かどうかを判断しているかというと、その情報が送り込まれてくる回数が最大の要因とされます。つまり、何回も復習すると、脳は重要な情報と判断し、側頭葉に転写して、長期記憶として定着させるというわけです。そして、記憶の仕上げは、「想起する」(思い出す)ことです。

高齢になると、人と話をしているとき、固有名詞がのど元まで出てきているのに、なかなか言葉にできないことが増えますが、専門的には、そうした"あれあれ、それそれ現象"を「舌端(ぜったん)現象」と呼びます。そうした現象を防ぐには、たびたび思い出しておくことが必要なのですが、では、どうやって想起すればいいのでしょうか?

これは、人に話すのがいちばんです。とりわけ、人に教えることは、ひじょうに効果的な記憶の定着法です。復習(保持に役立ちます)になるうえ、理解も深まり、かつ想起することにもなるからです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中