最新記事
腸疾患

注目高まる糞便移植、健康な便が腸疾患に効く?

THAT DOO-DOO THAT YOU DO SO WELL

2020年5月1日(金)15時00分
ジェシカ・ファーガー

Kurgu128-iStock.

<糞便需要が急増している。だが「質のいい便」とは何か。動物保護団体は菜食を増やすチャンスとアピールするが──。本誌特別編集ムック「世界の最新医療2020」より>

なぜ菜食は肉食より好ましいのか。野菜しか口にしないビーガン(完全菜食主義者)に聞けば、きっと意外な答えが返ってくる。肉を食べなければ家畜の飼育に伴う二酸化炭素の排出を減らせるし、食生活由来の癌や慢性疾患のリスクも動物虐待行為も減らせる......。

202003NWmedicalMook-cover200.jpgだけではない。動物の権利擁護団体PETAによれば、私たちの排出する糞便の「質」を高める効果もあるらしい。

PETAはビーガンに、糞便のスーパードナー(定期的提供者)になるよう呼び掛けている。クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)など致死的な腸疾患の治療には健康体の便を腸に植え付ける「糞便微生物移植」が有効だという説があり、糞便需要が急増しているのだ。

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に掲載された報告によれば、糞便移植を受けたCDI患者の84%が完全に回復した。別の研究でも、複数回の移植を受ければ治癒率が90%近くまで上がる可能性があるとされている。

しかし良質な便の入手は難しい。PETAによれば、果物と野菜を主食にすることで腸内の微生物叢(そう)の多様性が高まる。こうした微生物の多くには健康増進効果があり、なかには免疫システムなどの身体機能の維持に不可欠な微生物もいる。

一般に微生物叢が多様な人ほど健康状態がいいことは、多くの研究で示唆されている。また腸内バクテリアの分布と潰瘍性大腸炎や自閉症、アレルギー、鬱、一部の癌など慢性疾患との関係も指摘されている。さらなる研究のためにも、健康な微生物叢の持ち主の糞便への需要は高い。

PETAが糞便の提供者募集を始めたのは、胃腸専門医から「繊維質の多い菜食中心の食事は健康な腸内微生物の増殖を助け、健康な糞便の微生物叢は腸疾患の治癒に役立つ」と裏付けを得たからだという。

「野菜を食べてスーパードナーに」キャンペーンで肉食派の人が菜食に転向することも期待している。「便秘に悩む肉好きの人々が菜食を試してくれたら」と、PETAの広報担当は言う。「1人が食生活を変えれば、それだけで年に100頭の動物と、その人自身の命も救われる」

糞便移植はまだ米食品医薬品局(FDA)の承認を得ていない。しかしCDIに優れて有効との報告があるため、FDAは通常の治療法で効果がない患者に限り、かつ患者の同意を得た上であれば、担当医が糞便移植の実施を選択することを認めている(ただしFDAは2016年に規制を強化し、この実験的治療の実施を大病院に限定している)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中