幕が下りたら、ゴミになる。舞台芸術が抱える「大量廃棄」という闇

2026年3月16日(月)14時00分
柾木博行(本誌記者)

レパートリーシステムが抱える「持続可能性」の課題

しかし、長期間にわたる保管と再利用を前提とするレパートリーシステムにも、課題は存在する。

友光によると、現在、銚子の舞台美術センターはほぼ満杯状態で、空きコンテナは数本しかない状況だ。新国立劇場では年間2~3本(オペラ・バレエを含む)の新作が制作されるため、保管スペースを確保するためには、古い作品に「見切りをつけて」廃棄する必要がある。

どの作品を残し、どの作品を廃棄するかは、制作担当者との協議を経て決定され、その中で再利用できる部品は次の制作へ活かされる。永遠に全てを保管できるわけではなく、廃棄という判断を迫られる現実があるというわけだ。

また近年、サステナブルな取り組みとして、環境負荷の低い紙ベースの新素材を使った舞台美術が注目されているが、友光は、紙でできた舞台装置が「保管にどれくらい耐えられるのか」という点を大きな課題として挙げる。

舞台美術センターでも過去にカビが発生した事例があったという。また、紙のような素材は湿気を吸うことで膨張すると寸法が変わって使い物にならなくなることも懸念される。環境に優しい素材であっても、長期保管と再演というレパートリーシステムの前提を満たせない場合、その採用は難しくなるのだ。

サステナブルな舞台を「特別」から「一般」へ

日本の舞台芸術界に少しずつ広がるサステナブルな取り組み。この2月には新国立劇場の演劇部門が、2026年秋に就任する上村聡史新芸術監督の方針の一つとして、共通の舞台美術を使って異なる演目を上演するプロジェクト「グリーン・リバイバル・ラボ」を始めることを発表した。

しかし、単なるコスト削減に留まらない本格的なサステナブルな取り組みを行うためには多くの課題も浮き彫りになっている。最大の課題は、イマジネーション・グリーンも指摘するように、「時間」と「お金」である。

イギリスなど欧米の劇場がサステナブルな取り組みを積極的に行えるのは、文化芸術に対する社会的な資金提供が手厚いという背景がある。日本でも同様に、サステナブルな舞台づくりを「一部の意識の高い団体の特別な活動」から「業界のスタンダード」に変えるためには、文化庁などの公的機関による助成金支援が不可欠となるだろう。

具体的には、
•グリーン制作への加点:環境負荷の低い素材の使用や、廃棄物削減の計画を盛り込んだ公演に対して、助成金審査での加点
•リソース共有のインフラ整備:再利用資材を保管・管理・貸し出しする共同倉庫やプラットフォームの構築を、公共事業として支援
•トレーニング支援:「シアター・グリーン・ブック』に基づいた制作を学ぶためのトレーニングや専門家(グリーンプロダクションコーディネーターなど)を育成・配置するための資金提供
などが求められる。

舞台芸術は本来、人間の営みや社会の課題を映し出す鏡だ。その制作プロセス自体が持続可能であることは、現代社会において、芸術が未来へ残すべきメッセージとなるはず。日本の舞台芸術が、廃棄物という負の遺産を脱し、次世代へ継承される持続可能な文化となるために、業界全体の意識変革と、それを支える公共的な仕組みの構築が今、求められている。

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