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3D騒ぎが映画をダメにする9つの理由

Why I Hate 3-D (and You Should Too)

2Dの豊かな表現力を忘れて子供だましの映画が量産されかねない。映像体験を進化させる方法は別にある

2010年6月17日(木)15時09分
ロジャー・エバート(シカゴ・サンタイムズ紙映画評論家)

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 映画は2Dで十分。「もう1つの次元」は必要ない。ハリウッドが雪崩を打って3Dに走るのは自殺行為だ。飛び出す映像は観客の集中を妨げる場合があり、人によっては吐き気や頭痛の原因になる。映画館に高価な投影機材を売り付け、観客から上乗せ料金をふんだくろうとする狙いが透けて見える。

 3D映像は標準的な2Dより明らかに暗い。シリアスな映画には不向き。監督の「撮りたい映画を撮る自由」を縛る。R指定(17歳未満は保護者同伴)などの大人向け映画の観客には、特別料金に見合う満足感はまず与えてくれない。

 マーケティングの観点から見れば、私の考えが「異端」であることは承知の上だ。何しろ3Dはハリウッドに史上最大のドル箱商品をもたらし(『アバター』の世界興行収入は27億ドルを超え、さらに記録を更新中)、ほかにも数々のヒット映画を生んでいる。今年の3大ヒット作『アリス・イン・ワンダーランド』『ヒックとドラゴン』『タイタンの戦い』はいずれも3Dで上映されている。

 それでも、3Dの限界について私と同じ考えを持つ監督や雑誌編集者、撮影監督、映画ファンは少なくない。映画会社の重役たちの中にも今のブームに抵抗を感じている人がいる。

 50年代に一時期話題を呼んだステレオスコープで、3D技術は既に無意味なオモチャであることが分かったはず。ここで異端派の見方を1つずつ説明しよう。

1)もう1つの次元は要らない 2Dの映画を見ているときも、観客の頭の中では3Dの映像が見えている。地平線上の小さな染みのように見えるアラビアのロレンスが、砂漠に馬を駆ってぐんぐん迫ってきたとき、あなたは「あら、少しずつ体が大きくなるよ」と思うだろうか。

 私たちの脳は、遠近法で奥行きを感じ取る。人工的にもう1つの次元を加えれば、平面上の奥行きがあざとい感じになるだけだ。

2)より深い感動を与えることはない 心を揺さぶられた映画を思い出してほしい。3Dにする必要があるだろうか。偉大な映画は私たちの想像力を刺激してやまない。『カサブランカ』が3Dになっても、感動が大きくなることはない。

3)集中を妨げる場合がある 3D映画には、2D画像を左目用と右目用に分離しただけのものもある。その結果、ある物体が別の物体の上に浮かんでいるように見えるが、すべてが平板な印象は否めない。

 2Dでは、焦点を変えることで観客の目を画面上の1点に引き付ける手法がよく使われる。3Dは前景も背景もくっきりとクリアに見せることを狙っているようだが、その必要があるとは思えないし、観客の注意を引き付ける手段を監督から奪うことになる。

4)人によっては吐き気や頭痛を催す 3Dテレビが市場に登場する直前、ロイター通信が眼科学の権威2人に目に与える影響を聞いた。

 その1人ノースウェスタン大学のマイケル・ローゼンバーグ教授によると、「左右の目の周りの筋肉のアンバランスなど、非常に軽い障害があっても、それに気付かずに生活している人が大勢いる」らしい。「通常は脳がうまく調節している」ので支障を感じないが、3D映像を見るという非日常的な体験をすると、「脳に負担をかけることになり、頭痛を起こしやすい」とのことだ。

 私たちは普段、左右の目で微妙に異なる角度から物を見ていると、眼科学と神経学の専門家であるロチェスター大学医学センターのデボラ・フリードマン教授は説明する。「それを脳で処理して奥行きを認識している。3D映画の立体感は、人間の目と脳の仕組みとは違ったトリックで作られている」

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