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電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家庭のエネルギーの半分を捨てている日本の家

2026年2月3日(火)18時05分
高橋 彰 (住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事*PRESIDENT Onlineからの転載)
電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家庭のエネルギーの半分を捨てている日本の家

Utoimage -shutterstock-

<電気代の請求書を見るたびに、ため息が出る。節電を意識しているのに、なぜか光熱費は下がらない――そう感じている人は多いだろう>

電気代を安くおさえる方法はあるか。「住まいるサポート」の高橋彰社長は「家庭のエネルギーの"漏れ穴"がどこかに注目し、対策することだ。真っ先に手を付けるべき場所が2つある。この2か所で実に家庭のエネルギーの半分を捨てている」という――。

1戸最大200万円の補助金が下りる

電気代の請求書を見るたびに、「また上がったのか」とため息をつく人も多いのではないでしょうか。

2022年以降、日本の家庭のエネルギーコストは急上昇し、もはや光熱費は"固定費の一部"ではなく、家計を直撃するリスクになりつつあります。


そんな中で、政府がいま静かに、しかし大規模にお金を投じている分野があります。

それが、「既存住宅の断熱リノベーション」に対する補助です。

窓の交換、給湯器の更新、断熱改修などを組み合わせると、1戸あたり最大200万円を超える補助金が出ます。

しかも対象は新築ではなく、すでに建っている既存住宅です。

それも、縦割り色の強い日本において、「住宅省エネ2026キャンペーン」と称して、国土交通省、経済産業省、環境省の3省が連携して制度化しています。

これは、日本の政策の中でもかなり異例であるといってもいいと思います。

newsweekjp20260128013537.jpg

出典:環境省

なぜ国は、ここまでして「古い家の性能向上」に多額の予算の税金を投入するでしょうか?

その答えは、喫緊の課題である省エネ・省CO2だけでは説明がつきません。

そこには、もうひとつ、日本社会が抱える住宅に関わる深刻な問題があるのです。

寒い家が「健康寿命」を縮めてしまう

国が断熱改修に本腰を入れている背景には、「健康寿命」という観点があります。

住宅の寒さがもたらす問題は、単に光熱費や省エネ、快適性だけではありません。

寒い家は、高血圧など循環器系や呼吸器系のリスクを高め、結果として医療費や介護費に跳ね返えることが、近年の研究で繰り返し示されてきました。

寒くなると、毎年、寒い家のヒートショックリスクがメディアを賑わせています。

近年、寒い家の健康リスクについて、明確なエビデンスが示されています。

国土交通省の支援のもとで、慶應義塾大学の伊香賀俊治名誉教授らが中心となり、断熱改修前後の室温や血圧などを追跡する全国規模の調査が進められてきました。

国土交通省の公表資料でも、断熱改修による温熱環境改善が居住者の健康状態に与える効果の検証が明示されています。

さらに一連の研究の成果は、日本の建築研究にとどまらず、海外の有力医学誌(たとえば米国心臓協会系の学術誌「Hypertension」など)でも、室温と血圧の関連や、断熱改修の健康影響を示す研究として公表されています。

厚生労働省は、健康寿命の延伸を政策目標に掲げ、「健康日本21(第三次)」で国民の健康増進に取り組んでいます。この計画において、血圧をベースライン値から5mmHg低下させることを目標にしています。

一方、伊香賀名誉教授らの研究では、断熱改修工事を行うことで、高血圧患者は7.7mmHg、高齢者全体では5.0mmHgも低下させる可能性が示されました。

つまり、住宅の断熱性能向上が「省エネ」だけでなく、高血圧などの生活習慣病対策としても意味を持つ可能性が、学術的にも裏付けられているのです。

住宅の温熱環境を改善して血圧リスクを下げられるのであれば、断熱改修は「家の性能向上」ではなく、「医療・介護の社会コストを抑える投資」として位置づけることができます。

国が中古住宅の断熱リノベに大きな補助を出しているのは、エネルギー政策であると同時に、健康政策でもあるということです。

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