「低山だから大丈夫」が招く遭難...日本一「救助要請が多い山」の現実
「9時以降に登山開始」では遅い
彼らは携帯電話で家族に連絡しました。そこで話し合いをしたかどうかわかりませんが、結局、家族が秦野(はだの)警察署へ110番通報しました。午後8時、現地に山岳救助隊が到着して、いっしょに歩いて下山しました。男性3人はケガもなく、歩けるにもかかわらず「遭難」してしまったのでした。
見晴茶屋は大倉尾根の下部、標高620mの場所にあります。登山口の大倉まで、通常なら30分ほどで下れる所まで来ていました。大倉尾根はとても遭難の多い場所です。尾根上の一本道で迷うような所はありません。途中にはいくつもの山小屋があって、多くの登山者が登り下りしています。
そのような最も遭難の起こりそうにない場所にもかかわらず、遭難が多発しています。大倉尾根は現代の登山事情の縮図といえる場所なのだと思っています。
丹沢の例で紹介したように、「日が暮れて、暗くて歩けなくなった」という遭難が多発しています。そんなことが起こってしまう原因の一つとして、そもそも登り始めの時刻が遅すぎたということが大変多いのです。
先の丹沢の例は「最寄駅を9時に出発した」とありました。結論からいうと、この時刻では遅いのですが、「どうしようもなく遅すぎる」というほどでもありません。現実的には、この程度の時刻に出発するのは普通になっています。
朝5時ごろに自宅を出発するのが理想
東京都や神奈川県に自宅がある人なら、6時〜7時に自宅を出ればこの時刻になるでしょう。バスで登山口へ移動するのに30分かかり、登山開始は9時30分ぐらいです。でも、理想的な登山開始時刻は7時です。
そのためには自宅を遅くとも4時〜5時に出る必要がありますが、それくらいが、本当にリスクの少ない出発時刻です。現在、都市近郊の山では9時に登り始めるのは普通で、10時出発という人も少なくありません。それでも登れますし、何事もなく帰ってこられることが多いでしょう。
しかし、9時〜10時の出発ではリスクが高いという意識をもつ必要があります。日帰りで登山・ハイキングをする場合、午前中は登り、頂上付近でお昼にして、午後に下ることになります。そのなかで、遭難事故が起こりやすい危険な時間帯は、午後〜夕方の下りに集中しています。
転落・滑落や転倒事故が起こるのは下りのときですし、ルートミスをするのも、ほとんどが下りのときです。下りのときは、それまでの疲労がたまっていますし、集中力・注意力を維持するのがしだいに難しくなってきています。
ですから、下りでは時間的なゆとりをもちながら、ゆっくりと慎重に行動したいのです。





