最新記事
遭難

「低山だから大丈夫」が招く遭難...日本一「救助要請が多い山」の現実

2025年12月24日(水)12時38分
野村 仁 (編集者、ライター*PRESIDENT Onlineからの転載 )

「9時以降に登山開始」では遅い

彼らは携帯電話で家族に連絡しました。そこで話し合いをしたかどうかわかりませんが、結局、家族が秦野(はだの)警察署へ110番通報しました。午後8時、現地に山岳救助隊が到着して、いっしょに歩いて下山しました。男性3人はケガもなく、歩けるにもかかわらず「遭難」してしまったのでした。

見晴茶屋は大倉尾根の下部、標高620mの場所にあります。登山口の大倉まで、通常なら30分ほどで下れる所まで来ていました。大倉尾根はとても遭難の多い場所です。尾根上の一本道で迷うような所はありません。途中にはいくつもの山小屋があって、多くの登山者が登り下りしています。


そのような最も遭難の起こりそうにない場所にもかかわらず、遭難が多発しています。大倉尾根は現代の登山事情の縮図といえる場所なのだと思っています。

丹沢の例で紹介したように、「日が暮れて、暗くて歩けなくなった」という遭難が多発しています。そんなことが起こってしまう原因の一つとして、そもそも登り始めの時刻が遅すぎたということが大変多いのです。

先の丹沢の例は「最寄駅を9時に出発した」とありました。結論からいうと、この時刻では遅いのですが、「どうしようもなく遅すぎる」というほどでもありません。現実的には、この程度の時刻に出発するのは普通になっています。

朝5時ごろに自宅を出発するのが理想

東京都や神奈川県に自宅がある人なら、6時〜7時に自宅を出ればこの時刻になるでしょう。バスで登山口へ移動するのに30分かかり、登山開始は9時30分ぐらいです。でも、理想的な登山開始時刻は7時です。

そのためには自宅を遅くとも4時〜5時に出る必要がありますが、それくらいが、本当にリスクの少ない出発時刻です。現在、都市近郊の山では9時に登り始めるのは普通で、10時出発という人も少なくありません。それでも登れますし、何事もなく帰ってこられることが多いでしょう。

しかし、9時〜10時の出発ではリスクが高いという意識をもつ必要があります。日帰りで登山・ハイキングをする場合、午前中は登り、頂上付近でお昼にして、午後に下ることになります。そのなかで、遭難事故が起こりやすい危険な時間帯は、午後〜夕方の下りに集中しています。

転落・滑落や転倒事故が起こるのは下りのときですし、ルートミスをするのも、ほとんどが下りのときです。下りのときは、それまでの疲労がたまっていますし、集中力・注意力を維持するのがしだいに難しくなってきています。

ですから、下りでは時間的なゆとりをもちながら、ゆっくりと慎重に行動したいのです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中