最新記事
医療

「治療法はない」と言われても...愛する人を救うために立ち上がる家族たち【note限定公開記事】

SEEKING CURES

2025年9月28日(日)08時05分
アレクシス・ケイザー(本誌米国版ヘルスケア担当エディター)
中央にゲイブ・アウグダール、その両側に家族が並ぶ集合写真。ゲイブはデスモイド腫瘍の患者で、家族と研究財団の資金調達と広報に携わる

ゲイブ・アウグダール(中央)は希少疾患のデスモイド腫瘍の患者。家族と共にデスモイド腫瘍研究財団の資金集めとこの病気の広報活動に力を入れている。母親のサリーは同財団の理事 BOB CAREY/COURTESY FAITH OVER FEAR

<希少疾患の多くはいまだ治療法が確立されていない。だが告知の瞬間から、家族は資金集め、研究支援、臨床試験という現実的な戦いに踏み出す>


▼目次
1.「怪物」と名付けた遺伝子との闘い
2.「素人」だからこそできた問いかけ
3.「治療法はない」から「あなたの薬がある」へ

1.「怪物」と名付けた遺伝子との闘い

ケイシー・マクファーソンは娘が生まれたとき、心に誓った。父親として、娘を愛情深くて勇気があり、健康で強い人間に育てよう。自分が娘を守らなくては、と。

だから、2019年に小児神経科医から3歳の次女ローズが病名もないほど珍しい遺伝子疾患だと告げられて、親としての本能が目覚めた。

「打つ手はない」と言われると、その本能はさらに研ぎ澄まされた。

「ローズを襲ったのは怪物でも車でもなかった」と、マクファーソンは本誌に語る。「遺伝子のたった1つの塩基(DNAに含まれる化学物質)だ。そいつが私の殺すべき怪物なら、私はそいつを追いかける」

現在9歳のローズと46歳のマクファーソンは、毎日この「怪物」と小さな闘いを繰り広げている。

テキサス州オースティン郊外の自宅には「ロージーを守る」工夫が凝らされている。ベッドは徘徊防止用の柵で囲んだ特別仕様、夜間も発作の兆候がないかビデオカメラや酸素モニターや脈拍モニターで見守る。

同年齢の健常児と違って自分を抑えられないローズのために、鍵を3重にして化学薬品や電子機器を保管。

ローズは発作を抑える薬を1日2回服用し、私立の特別支援学校に通っている(経済的援助は全て15年待ちだったため、費用は自己負担)。

マクファーソンはロックバンドのフロントマンとして活躍していた。だが娘が難病と診断されたのを機に、NPOのトゥー・キュア・ア・ローズ・ファウンデーション、開発業務受託機関エバーラム・バイオ、公益法人アルファローズ・セラピューティクスを次々に創設。

ローズのような非常にまれな遺伝子疾患に苦しむ子供たちの治療法を見つけ、資金を提供する取り組みを進めている。

希少疾患の治療法を探す親や配偶者や患者は増えている。その多くは科学者や医師ではない。

しかし、それこそが自分たちの強みだと彼らは考えている。

米国立衛生研究所(NIH)によれば、アメリカの希少疾患患者は2500万〜3000万人。既知の希少疾患は1万種類を超え、合計すればアメリカ人の10人に1人が罹患する計算になる。

個々の疾患は人口のごく一部にすぎなくても、合わせるとかなりの割合になるのだ。

アメリカでは患者数20万人未満が希少疾患に分類される。患者数がわずか数百人の疾患もあり、限られた研究資金を確保し、臨床試験に必要な人数を集めるのは困難だ。

「新薬開発のタイムラインで1度に1つの病気に取り組んでいたら、一定数の治療法を確立するまでに何世代もかかる」と、NIHの国立先進トランスレーショナル科学センター(NCATS)希少疾患研究イノベーション部門の責任者ドミニク・ピシャードは語った。

既知の希少疾患で米食品医薬品局(FDA)承認済みの治療法があるのは5%未満。「問題解決のためには、より良い方法を考える必要がある」

そこで彼女が注目したのが癌治療研究の「プラットフォーム方式」だ。

癌自体は希少ではないが、個別の癌には希少なタイプが多々ある。

1度に1つの亜型(サブタイプ)だけに目を向けていたら研究はなかなか進まなかっただろうが、癌をグループ化して共通の経路を標的にした結果、個々の投資の効果が何倍にも増えた。

このように適応性があって横断的なフレームワークを希少疾患研究でも再現したいとピシャードは考えている。

病名や症状は違っても、生物学的メカニズムは共通している可能性がある。関連性が見つかれば、限られたリソースを別の種類の希少疾患の患者にも回せるかもしれない。

この活動における患者団体の存在意義は高まる一方だ。

彼らはデータ整理、研究資金の調達、医師の教育に取り組み、さらにプロセス活性化のために科学者を集めることで、プラットフォーム方式の基礎を築いてきた。

ソーシャルメディアやオンライン会議のおかげで、全米から患者を動員しやすくなった。

「これらの疾患の現実を知っている患者や患者団体を研究に巻き込むことがいかに重要か、承知している」と、ピシャードは言う。

newsweekjp20250926062233.jpg

長女ウェストンと次女ローズを抱き寄せるマクファーソン(中央)。ローズのような遺伝子疾患に苦しむ子供たちのための活動に取り組んでいる COURTESY CASEY MCPHERSON

2.「素人」だからこそできた問いかけ

ジーン・ホワイティングとマーリーン・ポートノイは、今年で創設20周年を迎えるデスモイド腫瘍研究財団の共同創設者だ。

ホワイティングは01年に、ポートノイは夫が04年にデスモイド腫瘍と診断された。

◇ ◇ ◇

記事の続きはメディアプラットフォーム「note」のニューズウィーク日本版公式アカウントで公開しています。

【note限定公開記事】「治療法はない」と言われても...愛する人を救うために立ち上がる家族たち


ニューズウィーク日本版「note」公式アカウント開設のお知らせ

公式サイトで日々公開している無料記事とは異なり、noteでは定期購読会員向けにより選び抜いた国際記事を安定して、継続的に届けていく仕組みを整えています。翻訳記事についても、速報性よりも「読んで深く理解できること」に重きを置いたラインナップを選定。一人でも多くの方に、時間をかけて読む価値のある国際情報を、信頼できる形でお届けしたいと考えています。


ニューズウィーク日本版 ハーバードが学ぶ日本企業
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月30日号(9月24日発売)は「ハーバードが学ぶ日本企業」特集。トヨタ、楽天、総合商社、虎屋……名門経営大学院が日本企業を重視する理由

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア外相が西側に警告 「いかなる攻撃にも断固とし

ビジネス

中国工業部門利益、8月は20.4%増 大幅なプラス

ワールド

アングル:ノーベル平和賞を熱望のトランプ米大統領、

ビジネス

アングル:金融機関にも米技能ビザ見直しの波紋、高額
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国はどこ?
  • 3
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒りの動画」投稿も...「わがまま」と批判の声
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 6
    「戻れピカチュウ!」トルコでの反体制デモで警官隊…
  • 7
    国立西洋美術館「オルセー美術館所蔵 印象派―室内を…
  • 8
    「不気味すぎる...」メキシコの海で「最恐の捕食者」…
  • 9
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 10
    「最後の手段」と呼ばれる薬も効かない...「悪夢の耐…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中