最新記事
ジェンダー

スウェーデンで「男らしさ」めぐり議論噴出...父親たちが本音を語り合うテレビ番組『3人のパパ』に賛否両論

Sweden’s “Masculinity Crisis”

2023年3月16日(木)15時00分
マーティン・ジェリン
『3人のパパ』

3人の父親が本音を語り合う『3人のパパ』は公共放送でライブ討論会が開かれるほど話題になった SVTーSLATE

<男女平等政策が進んだスウェーデンの父親たちの本音を赤裸々に描いたテレビ番組に保守派や右翼民族主義者が反発。リベラル派やフェミニストも疑問視。国を分断する騒ぎに>

スウェーデン人の男性(みんな子持ち)が8人、田舎の農家で輪になって座っている。夕闇が迫るなか、みんな目を閉じて、何やら唱えている。1人はアコースティックギターを抱えて静かに弦を弾き、残りの人の手には小さなロウソク。よく見ると、誰かが大きな鍋で熱いビーガン・チョコレートをかき混ぜている。

この「カカオの儀式」のクライマックスは男たちの告白だ。今まで口に出せなかった心の底の複雑な思いを吐き出して、みんな涙を流す。

昨年11月に公共放送スウェーデン・テレビ(SVT)で放映された連続テレビドキュメンタリー『3人のパパ』の最終回に登場する印象的かつ衝撃的なシーンだ。若い3人のパパたちはストックホルム郊外のリベラルな地域に暮らすが、別に「父親たちの隠れ家」を作り、そこで子育てにまつわる本音をぶつけ合う――だけではない。互いにハグし、裸で一緒に腕立て伏せをやり、「ジェンダーの不平等は至る所にある」と愚痴る。

「勘弁してくれ、こいつら本気かよ」。そう思った視聴者も多いという。

ヨナス・マンデルスタムとヨン・オスカーション、リヌス・ルンドクビストの3人が自分たちの「隠れ家」をYouTubeで紹介すると、その動画はたちまち爆発的に拡散した。こういう現象の常だが、拡散させた人の大半は3人を許せないと思っていた。

【動画】『3人のパパ』が自分たちの「隠れ家」を紹介する動画

「こいつを見るとストックホルムを爆撃したくなる」という書き込みがあり、「国中がこの3人を嫌っているぞ」というのもあった。

育児休暇取得者の3割

嫌われただけではない。公共放送で紹介された彼らの生きざまはスウェーデン国民を真っ二つに分断した。折しも9月の総選挙で大接戦の末に右派連合が政権を奪還したばかり。勢いづく保守派や右翼民族主義者は『3人のパパ』に、リベラルな都会人やスウェーデンの現代文化に巣くう諸悪の根源を見た。

対するリベラル派やフェミニストの間にも、遠くの隠れ家で父性について議論する暇があったら、もっと子供と過ごす時間を増やすべきではないかという疑問の声がある。

あまりに反響が大きかったので、放送局のSVTはゲスト数十人と多数の視聴者を集めてライブ討論会を開いた。テーマは、この番組から見えてくるのは「男らしさの危機」なのか否かだ。

立場も年齢もさまざまな人が参加したが、ある右翼の著名人は子育てに励む3人への嫌悪感を抑え切れず、こう言い放った。「私なら絶対、絶対にあんなことはしない。輪になって座り、よく知りもしない男に抱き付き、感情の話をするなんて。今の社会に必要なのは強さを示せる男を増やすこと。弱さを見せる男などは願い下げだ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中