最新記事

日本経済

都心であえて「風呂なし物件」選択 ミニマルライフに追い込まれる令和の若者たち

2023年1月16日(月)12時45分
鈴木貴博(すずき・たかひろ) *PRESIDENT Onlineからの転載

日本も社会インフラは豊かになったが...

さて、そのようなイタリア人の一人当たりGDPが2万ドル前後だった時代はもう30年近い昔の話です。今ではIMF(国際通貨基金)が発表する世界の一人当たりGDPランキングで見ると日本が27位でイタリアは28位。イタリアはかなり裕福になり、私たち日本はかなり世界の中での地位を下げてきました。

一方でこの30年間で日本の社会インフラはかなり向上したことは事実です。少なくとも大都市であれば公共交通網は完成の域に達しましたし、スーパーやコンビニといった生活インフラはとても身近なところに存在しています。そこにスマートフォンという通信インフラが登場したことで地域間のインフラ格差も縮小しました。結果的に、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、値上げラッシュという諸問題が表面化するまでは、多くの人にとって日本からは生活の不安はほとんどなくなりました。

インフラが資産となっている点は令和の日本は昭和よりも上なのですが、一方で一人当たりGDPというフローで見た場合の国民の豊かさに不安が頭をもたげる状況になっているわけです。

コンビニやユニクロも「高くて手が出ない」

そこに昨年、値上げラッシュという新たな不安要素が加わりました。これまでコンビニとファストフードと百均とユニクロがあれば生活は成り立つと思っていた若者も、百均では満足できる商品は手に入らず、コンビニとユニクロは商品が高くて買えないという新しい現実に直面するようになったのです。

結果として若者が風呂なし物件を探さなければならなくなるというのが因果関係であれば、それはミニマリストがトレンドであるのではなく、ミニマリズムでしか生き残れない時代が始まったということになります。

つまりミニマリズムの志向から始まる豊かな人生なのか、ミニマリズムに追い込まれる貧しさの先の人生なのか、そのどちらが本当の社会トレンドなのかがこれからだんだんと明確になっていくことで、その是非が問われていくことになるのでしょう。2023年はどんな一年になるのでしょうか。

鈴木貴博(すずき・たかひろ)

経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

デンマーク、ロシア産原油輸送の「影の船団」阻止を検

ワールド

ロシア拘束の米記者、スパイ容疑の審理非公開で実施 

ワールド

NATO加盟20カ国超、24年に国防費2%目標達成

ワールド

米印、貿易や産業協力の障壁巡り対応へ 「技術流出防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 5

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 6

    なぜ日本語は漢字を捨てなかったのか?...『万葉集』…

  • 7

    中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理…

  • 8

    ジョージアはロシアに飲み込まれるのか

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 7

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中