最新記事

0歳からの教育

理想の子供像を押し付けず、豊かな個性を尊重して「生きやすさ」を育む意味

Cultivating Individuality

2022年3月3日(木)15時55分
岡田光津子(ライター)
赤ちゃんと両親

敏感、活発、引っ込み思案など、生まれながらの気質は周囲との関わりを受け性格を形成する(写真はイメージです) Yagi-Studio-iStock

<内向的、活発、短気......生まれ持った個性はさまざま。その子らしさを生かした働き掛けで自己肯定感を育んで>

1歳のわが子がちょっとしたことでかんしゃくを起こしてばかりいたら......。ママはなだめたり叱ったり、生まれつきの性格かとため息をついたりしてしまうかもしれない。

でもそんなとき、慌てず騒がずそっと手を当てて寄り添い、「びっくりしたね」「怒っているんだね」と感情を代弁してあげたらどうだろう。気持ちが落ち着くのを待って、友達と仲直りする方法をそっと教えてあげたとしたら?

小学校に入る頃にはかんしゃく癖も収まり、自分の気持ちを言葉で伝えられる子になった──そんな例は数多い。

「赤ちゃんはそれぞれの性格のベースになる個性(気質)を持って生まれ、それらが養育者や社会との関わりのなかで育成されてその子の性格となっていく」と、公認心理師で育児相談室「ポジカフェ」を主宰する佐藤めぐみは言う。

これは、1963年にアメリカの心理学者アレクサンダー・トマスらが行ったニューヨーク縦断研究に基づく意見だ。この研究では140人の乳幼児を対象に、活発さ、注意のそれやすさ、粘り強さ、五感の敏感さなど9つの気質特性を5段階で評価した。その評価を組み合わせた結果、乳幼児期で既に扱いやすい子が40%、扱いにくい子が10%、順応が遅い子が15%、平均的な子が35%と、4タイプがあることが明らかになっている。

なお、持って生まれた個性は、養育者がその子に没頭する(懸命に向き合い世話をする)ことで形を変えていくことも分かっている。

発達臨床心理学を専門とする白百合心理・社会福祉研究所の青木紀久代所長は、親子関係の質と子供の人格形成の関連について長期的な観察を行った自らの研究結果から、次のように語る。「例えば産院にいたときは夜泣きなど疳(かん)の虫が強く、尖った個性を持っていても、母親をはじめとする養育者が世話に没頭することで、次第にそれがマイルドなものとなり、1カ月健診の頃には支障のない範囲のものとなることが多い」

ただし、持って生まれた気質のようなものは、変わることなく息づいていく。引っ込み思案な子を突然活発にしたり、外向的な子を無理やりに落ち着かせたりするのはやはり難しい。「親の理想とするところに子供を当てはめようとするより、その子の個性を生かし、その子らしく生きやすいようにするのが一番だ」と青木は言う。

佐藤によると、かんしゃくが強い、引っ込み思案などの個性には、次のような接し方が効果的だという。「かんしゃくは親が根負けしてしまうと定着しやすいため、ルールを守る練習を取り入れることも大切。子供は加点法を好むので、テレビは1時間というルールも『45分で一度止められたら、食後に15分追加』のようにすると遵守しやすくなることが多い」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中