「邪悪な魔女」はアメリカの歴史そのもの...歌と魔法に包まれた『ウィキッド』が描く「現実社会の苦さ」
BRANDED AS A WICKED WITCH
魔女が奏でる抵抗の賛歌
さらにウィザードは、動物たちをスケープゴートとして利用する。
オズではかつて、動物たちも言葉を操り、人間と同等の権利を持っていたが、国を襲う干ばつによって国民の不満が表面化すると、ウィザードはそのはけ口として動物への迫害を始める。動物たちは話す力を奪われ、声を上げる者たちは次々と行方不明になってしまう。
本作における動物は、現実社会で植民地主義によって言葉と文化を不条理に奪われ抑圧されてきた人々のメタファーでもある。
エルファバは動物を解放しようと闘争を始める。正義を貫こうとする彼女こそが、魔法の書グリムリーに選ばれたオズを導く救世主なのだ。
エルファバは後編『永遠の約束』で、ウィザードの迫害から逃れるためにオズを去ろうとする動物たちに、この映画のために書き下ろされた新曲「ノー・プレイス・ライク・ホーム(No Place Like Home)」を歌う。
なぜオズを愛すの?/愛されたこともないのに....../もう戦えないと思ったら/自分に言ってみて/我が家にまさる場所はないと/戦う価値は無いと感じたら/自分を鼓舞して/我が家にまさる場所はないから
それはあたかも、強者の脅しに屈し、権力者に迎合し、不正義に声を上げることをためらう現実社会の人々を鼓舞するアンセムのように響く。
本作の深層には、変貌しつつある現在のアメリカへの政治的なメッセージが織り込まれているのだ。
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