日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由

GAINED BY TRANSLATION

2025年9月23日(火)12時00分
巽 孝之(慶應義塾大学文学部名誉教授、慶應義塾ニューヨーク学院長)

「メカデミア」からは優秀な翻訳者が少なからずデビューしたが、なかでもブライアン・バーグストロムが、核の想像力を追求する作家&芸術家の小林エリカ作品をイギリスのアストラ・ハウスより続々訳出するようになったのは、注目に値しよう。

小林は、核爆弾を主人公にしたブラックユーモアあふれるアニメ作品『爆弾娘の憂鬱』(1999年)から、放射能を「光」として視認できる猫と震災の年に生まれた少女を主役に据えた小説『マダム・キュリーと朝食を』に至るまで、緻密な歴史的検証を重ねつつ、核の想像力を一貫して開花させてきた。その主題をさらに深く掘り込んだ近作『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(原著19年、英訳22年)や「日出ずる」を中核に据えた短編集『彼女は鏡の中を覗きこむ』(原著17年、英訳23年)が高く評価され、北米では小林とバーグストロムのジョイント朗読会も行われるほどだ。

小林エリカ『トリニティ、トリニティ、トリニティ(Trinity, Trinity, Trinity)』

小林エリカ『トリニティ、トリニティ、トリニティ(Trinity, Trinity, Trinity)』 ASTRA PUBLISHING HOUSE(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


若手日本学者たちの英断

最後に、北米における日本文学英訳者たちの具体的な横顔を紹介して、締めくくりたい。10年ほど前、慶應義塾大学文学部で私が留学受け入れ先となったエール大学博士課程院生(当時)サム・マリッサは、ハーマン・メルヴィルの日本的受容を主題に博士論文を書いていたので、15年に東京・三田で行った国際メルヴィル会議では、特別講師の坂手洋二による書き下ろし戯曲「バートルビーズ」を短期間で英訳してもらった。

そして22年、ニューヨーク勤務になった私が久々にマリッサと会食したところ、「実は、大学教授を目指すのではなく職業翻訳家としてやっていこうと決めたんです」と報告され、驚いたものである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米企業、来年のインフレ期待上昇 関税の不確実性後退

ワールド

スペイン国防相搭乗機、GPS妨害受ける ロシア飛び

ワールド

米韓、有事の軍作戦統制権移譲巡り進展か 見解共有と

ワールド

中国、「途上国」の地位変更せず WTOの特別待遇放
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 9
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 10
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中