日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
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「メカデミア」からは優秀な翻訳者が少なからずデビューしたが、なかでもブライアン・バーグストロムが、核の想像力を追求する作家&芸術家の小林エリカ作品をイギリスのアストラ・ハウスより続々訳出するようになったのは、注目に値しよう。
小林は、核爆弾を主人公にしたブラックユーモアあふれるアニメ作品『爆弾娘の憂鬱』(1999年)から、放射能を「光」として視認できる猫と震災の年に生まれた少女を主役に据えた小説『マダム・キュリーと朝食を』に至るまで、緻密な歴史的検証を重ねつつ、核の想像力を一貫して開花させてきた。その主題をさらに深く掘り込んだ近作『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(原著19年、英訳22年)や「日出ずる」を中核に据えた短編集『彼女は鏡の中を覗きこむ』(原著17年、英訳23年)が高く評価され、北米では小林とバーグストロムのジョイント朗読会も行われるほどだ。
若手日本学者たちの英断
最後に、北米における日本文学英訳者たちの具体的な横顔を紹介して、締めくくりたい。10年ほど前、慶應義塾大学文学部で私が留学受け入れ先となったエール大学博士課程院生(当時)サム・マリッサは、ハーマン・メルヴィルの日本的受容を主題に博士論文を書いていたので、15年に東京・三田で行った国際メルヴィル会議では、特別講師の坂手洋二による書き下ろし戯曲「バートルビーズ」を短期間で英訳してもらった。
そして22年、ニューヨーク勤務になった私が久々にマリッサと会食したところ、「実は、大学教授を目指すのではなく職業翻訳家としてやっていこうと決めたんです」と報告され、驚いたものである。