最新記事
ロック

ロック界のカリスマ、フランク・ザッパの娘が語る「私たち家族は健全なカルト集団だった」

Not All Cults Are Bad

2024年9月12日(木)22時35分
ムーン・ユニット・ザッパ(俳優、歌手、作家)

newsweekjp_20240912040716.jpg

ザッパには熱狂的ファンも多かった(88年、ロッテルダム公演) FRANS SCHELLEKENSーREDFERNS/GETTY IMAGES

最後のタイムカプセル

中学生になった私は、学校やショッピングモールで耳にした人気者の女の子たちの声をまねして、崇拝する父から本物の笑いを引き出すことができた。13歳の私は、このささやかな喜びに背中を押され、一緒に何かをしたいと書いたメモをスタジオのドアの下に差し入れた。

そして、運命が動いた。父と娘のひそやかな時間が、世界的なヒット曲になったのだ。私の名前は永遠に父と結び付けられることになり、父と共に名声と称賛を浴びた。遠くロシアやオーストラリア、東京、カナダの女の子からファンレターが届いた。


1989年、父は前立腺癌で余命1年と宣告された。父は48歳、私は22歳だった。

家族は父の気晴らしになりそうなことをあれこれと試した。あるとき、父を説得して映画館に連れて行った。私が慎重に選んだ作品は『トータル・リコール』。父は楽しんでくれた。特に、火星反乱組織のリーダーのクアトー(男性の腹から飛び出しているミュータントの赤ちゃん)が気に入っていた。

私は大切な人を失いつつある苦悩と悲嘆を前に最善の防御として、スピリチュアルなものにすがった。無神論者を自認する父は言った。「どうせやるなら、とことんやれ」

私は恥ずかしさで胸が詰まった。でもそれをきっかけに、信心(父には信心がなかった)や死ぬことへの恐怖(父は死や死後について考えていなかった)の話をした。父は言った。「特に何も起こらない。全てが消えるのだろう。電気のスイッチみたいに」

まさにスポックの返答だ。私は動揺した。父も気付いたのだろう。次に会ったとき、バター色の大きな楽譜用紙の裏に描いた絵を見せてくれた。

光り輝く十字架の上部から、エネルギーの放出を強調するように2本の線が延び、真ん中に矢印が左から出ていた。用紙の上部に美しいブロック体でこう書かれていた。

「ムーンのための神の絵」

私は涙があふれた。絵の意味を聞くと、父は矢印を指さした。「クアトーの拡張だ」

最近、私は義姉にこの絵の話をして、インターネットで検索した説明をメールで送った。「クアトーは1990年代のSF映画に登場する脇役。相方の腹部に融合した結合双生児のミュータント」

説明の続きを読むと、私が忘れていたクアトーのせりふがあった。「あなたが何をするかがあなたという人をつくる。人はその人の記憶ではなく、行動で定義される」

ああ。これも父からのタイムカプセルだったのだ。マエストロのペンで描かれた絵にメッセージが隠されている。

「私は君の中に生きている。結合双生児のミュータントのように。さあ、アートをつくろう」

私はずっと、そう言ってほしかったのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、メンフィスで法執行強化 次はシカゴと表

ワールド

イスラエルのカタール攻撃、事前に知らされず=トラン

ワールド

イスラエル軍、ガザ市占領へ地上攻撃開始=アクシオス

ワールド

米国務長官、エルサレムの遺跡公園を訪問 イスラエル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中