最新記事
映画

「惨めなクリスマス映画」の新定番、インテリおじさん教師の悲哀を描く『ホールドオーバーズ』

Alone at Christmas

2024年6月21日(金)13時16分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
ドミニク・セッサ演じるアンガスとポール・ジアマッティ演じるポール

アンガス(左、セッサ)とポール(右、ジアマッティ) SEACIA PAVAO / ©2024 FOCUS FEATURES LLC.

<1970年代の高校を舞台に「意外な友情」を映し出す、アレクサンダー・ペイン監督最新作。アカデミー賞でも脚光を浴びる名優たちと肩を並べた映画初出演の新人にも注目>

中途半端なインテリで、きつい皮肉を繰り出すけれど、どこか哀れな雰囲気を漂わせているおじさん。

そんなキャラクターを演じさせたらピカイチの俳優ポール・ジアマッティが、アレクサンダー・ペイン監督の新作『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』で主人公を好演している。2人がタッグを組むのは『サイドウェイ』(2004年)以来、20年ぶりだ。

舞台は1970年、米ボストン近郊の全寮制高校バートン校。クリスマス休暇が近づき、みんな家族と過ごすために故郷に帰っていくが、寮に残らなければならない生徒が何人かいる。

頑固な古典の教師ポール・ハナム(ジアマッティ)は、良家の生徒を落第にした(そのために学校への寄付が減った)「罰」として、校長から居残り組の監督をするよう命じられる。

もともと生徒に人気のないポールだが、居残り組の生徒たちに自習を強い、休み時間には運動を課して、大ブーイングを浴びる。

ところが、あるリッチな保護者の計らいで、居残り組は一転、スキーリゾートでクリスマスを過ごすことに。みんな急いで親の承認をもらうが、アンガス・タリー(ドミニク・セッサ)だけは両親と連絡がつかず参加できない。

一方、寮の料理長メアリー・ラム(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)は、息子がベトナム戦争で戦死して、初めて独りぼっちでクリスマスを過ごそうとしていた。

こうしてポールとアンガスとメアリーの3人による奇妙なクリスマス休暇が始まる。

年齢も立場も違う3人だが、やがて意外な友情を育むことになる──。そんな展開は誰にとっても意外ではないだろう。

それでも『ホールドオーバーズ』は、個性的な俳優と優れた脚本によって、お決まりの展開が着心地のいいカーディガンのように感じられる作品に仕上がっている。

俳優たちの演技が光る

これは映画全体が、どこかレトロな雰囲気を醸し出していることと関係がありそうだ。

ペインが『ペーパー・ムーン』(73年)など70年代の名作を参考にしたのは間違いなさそうだが、撮影に35ミリフィルムを使い、サウンドをステレオではなくモノラルサウンドにしたことも功を奏したようだ。おかげで映画全体に、どこか既視感が漂っている。

ペインが「時代物」の映画を撮るのはこれが初めてだが、登場人物を通じてパンチの効いた社会風刺をするのは、彼の得意とするところだ。ただ、珍しく脚本は担当しておらず、テレビドラマの脚本で活躍してきたデービッド・ヘミングソンが担当している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる

ワールド

米空母、南シナ海から西進 中東情勢緊迫化
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中