最新記事
映画

『PERFECT DAYS』のヴィム・ヴェンダース監督が惚れた役所広司の「まなざし」

2023年12月21日(木)17時43分
大橋希(本誌記者)
映画『PERFECT DAYS』

ある日、姪のニコ(右)が現れたことで平山の日常が小さく揺らぐ ©2023 MASTER MIND LTD.

<ドイツの名監督がトイレ清掃員を主人公とする映画『PERFECT DAYS』を撮る中で感じた「日本の魂」とは――>

これはもしかして退屈な映画なのか? 無口な中年男性の同じような毎日の繰り返しだ、と思っていると裏切られるのがヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』。退屈に思える日々がいつしか「完璧な日々」になる。

映画は安藤忠雄、伊東豊雄、佐藤可士和、NIGOら16人の著名建築家・デザイナーが参加し、渋谷区の公園や道沿いにある公共トイレを生まれ変わらせる「THE TOKYO TOILET」から派生したものだ(2018年から始まったこのプロジェクトの発案者は、ファーストリテイリング取締役の柳井康治)。

「一度見に来て、興味が持てたら短編を作るなどしてほしい」と、ヴェンダースが声をかけられたのが始まり。「関わった建築家たちの名前を見て本当に驚いた。彼らがトイレのような小さな建築物を手がけたことは衝撃的だったし、同時に素敵なことだと思った」と、彼は本誌に語る。

ヴェンダースにとっては、新型コロナのパンデミック後に撮る最初の劇映画になった。そうであれば、単にアートプロジェクトを記録するのではなく物語として、それも東京という大きな場所での物語にしたいと考えたという。

製作に当たってヴェンダースが立てた問いは、「私たちはどう生きるか」だ。「それに対して、(主人公の)平山は根本的な答えを出していると思う」

平山(役所広司)は東京・渋谷でトイレ清掃員として働く。1人で暮らす古アパートは東京スカイツリーを望む下町にあり、そこから毎日車で首都高を飛ばして現場へ向かう。「平山は木が好きですが、彼が現代の『木』であるスカイツリーの足元に住んでいるのがとてもいい。東京を横断して仕事に行くのも、ロードムービーの要素があって気に入っている」

平山は毎朝、近所の人が竹ぼうきで道を掃く音で目覚め、植物へ水をやり、身支度をする。缶コーヒーを買って車に乗り込み、渋谷へ。清掃の仕事が終われば銭湯と飲み屋で疲れを癒やし、就寝前には古本屋で買った文庫本を楽しむ。

そんな日課を重ねるなかで、ちょっとした出来事――トイレ利用者とのひそかなやりとり、同僚の恋愛相談、飲み屋のママとの会話など――が変化を呼ぶ。ぐるぐると同じ場所を円環して見えて、らせんを描くように彼の人生は進んでいく。やがて高校生の姪のニコ(中野有紗)と久しぶりに再会し、物語は大きく動く。

建築
顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を持つ「異色」の建築設計事務所
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

クアッド外相会合、7月1日に開催=米国務省

ワールド

SCO国防相会議、共同声明採択至らず 「テロ」言及

ワールド

ネタニヤフ氏、対イラン「勝利」で和平機会拡大

ワールド

ベゾス氏の豪華結婚式、ベネチアで始まる 芸能・政財
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中