「ジャニーズ神話」が死んだ日...潮目が変わった「公然の秘密」性加害タブー

THE END OF THE MYTH

2023年6月23日(金)15時30分
デービッド・マクニール(ジャーナリスト、聖心女子大学教授)

230620p18_JNS_03.jpg

喜多川の性加害問題について見解を動画で発表する藤島ジュリー景子社長(ジャニーズ事務所の公式サイトより)

5月14日、喜多川の姪でジャニーズ事務所の現社長である藤島ジュリー景子が1分間のビデオメッセージをネット上で公開し、「深く」謝罪した。だが多くの人は、この謝罪は不誠実であり、被害者をばかにしているとさえ感じた。

藤島は質問に答える形での文書も発表。その中で喜多川の行為を知らなかったと主張し、「当事者」であるジャニー喜多川に今となっては事実関係を確認することはできないと述べた。

さらに、「個別の告発内容について事実と認める、認めないと一言で言い切ることは容易でない」と付け加え、被害者の証言の事実認定は避けた。

だが橋田に言わせれば、藤島が「知らなかったはずはない」。本誌も藤島に取材を申し込んだが、「マスコミからインタビューなど含む取材や記者会見のご依頼は、国内外問わず一切、全て辞退させていただいております」との回答だった。

ビルボード誌のシュワルツも、藤島の回答を批判する1人だ。

「要するに彼女は、もうジャニー喜多川とは話ができないから事実関係は確認できないと言っている。つまり、会社としては彼がやったことを絶対に認めないということだ」

ファンたちの複雑な心境

とんでもない話だが、大方の予想では、こうした事務所の対応はおそらく成功する。

作家で日本のポップカルチャーの専門家であるマーク・シリングは、「ジャニーズのブランドには汚点が付いたが、それが個々のタレントの活動にどう影響するかは分からない」と言う。

「あるタレントがジャニーズの一員だという理由でコンサートの開催を中止すると決めれば、結果としてタレントを罰することになる。ファンたちは、きっとそう考えてしまう」

シリングの見立てでは、ジャニーズ事務所が望むのはこのスキャンダルが早く忘れられ、第三者による調査も回避することだ。

「自民党から大企業に至るまで、日本の社会で権力を握っている組織はどこも同じだが」とシリングは言う。

「ジャニーズもきっとこの危機を乗り切れる。原子炉のメルトダウンで東京を含む国土の3分の1が避難対象になりかねない事態を招いた東京電力でさえ、今も堂々と事業を続けている。ならばジャニーズ事務所も今度の危機を乗り切れる」

しかし、ジャニーズのファンはどうだろうか。FCCJでのオカモトの記者会見以来、多くの人が実に不愉快な真実に直面せざるを得なくなっている。

自分たちが愛し、共に育った家族みたいな会社は、もしかして根底から腐っていたのか?

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ワールド

カナダ、北極圏2カ所に領事館開設へ プレゼンス強化

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中