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坂本龍一

「YMO第4の男」松武秀樹が語る、坂本龍一『千のナイフ』制作秘話

A GROOVE MASTER PASSES AWAY

2023年4月12日(水)13時20分
澤田知洋(本誌記者)

――YMOの海外ツアーで観客はどういう反応だった?

日本のバンドが初めて世界に出てきて、大きい電子楽器で何を演奏するのか。奇妙奇天烈な音でとんでもないことをやらかすのでは? と皆さん驚かれたんじゃないかな。「イエロー・マジック・オーケストラ」という簡単明瞭な言葉で表されているように(サポートメンバーを含めて)6人しかいない東洋のバンドが何十人分もの演奏を、コンピューターを介することで見せることが珍しく受け取られたと思う。

何十台ものシンセサイザーをどうやって操って音を出すのかも不思議だったんじゃないかな。普通は自分みたいなシンセサイザーのプログラマーはステージには上がらない。でも細野晴臣さんが松武さんもステージに、と言ったのは人間対機械のステージ上でのせめぎ合いというか、共存共栄をお客さんに見せるバンドコンセプトも関係あったのだと思う。

――坂本さんの言葉で印象に残っていることは。

コンピューターなら何でもすごい、ということでなく、コンピューターは人間がある程度の情報を与えないと何もできないので、情報の与え方、要はプログラムの仕方を研究しなきゃいけないとおっしゃっていた。現代なら人工知能(AI)もきちんと情報を与えないと間違ったことをやっちゃうわけで。YMOの3人はそういう思考をはなから持っていた。

いい例が、音楽がノッてくると体が動く「グルーブ」について。暗黙の了解のうちにバンドメンバーたちがアイコンタクトで「よし行くぜ」と演奏するからグルーブが生まれる。

だけどコンピューターはそういうことはできない。アイコンタクトを数値化して、それをMC-8などに情報として与える。だから、演奏のピークへ向けてグルーブを盛り上げていく数値の入れ方がある。それを坂本さんが特に研究されていた。僕に坂本さんがここはもう少し数値を手前に、とか後ろに、とか話しながら入力して曲が作られていった。

均等に正確無比に演奏するものもテクノだけど、自分たちなりの感情、グルーブを数値化して、それを入れ込んでいくというのもYMOならではのグルーブ感を出す方法だった。

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