最新記事
映画

孤独な男にしては来客が多過ぎ──主役の演技が光る故にもったいない映画『ザ・ホエール』

Terrific in a Terrible Film

2023年4月8日(土)10時13分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
ブレンダン・フレイザー

孤独な中年男チャーリーは引きこもりで過食 ©2022 PALOUSE RIGHTS LLC.    ALL RIGHTS RESERVED.

<苦悩する主人公を『白鯨』に重ねて、孤独な中年男の最期の日々を描く。主役の演技は素晴らしいが、135キロのファットスーツに違和感が......>

ダーレン・アロノフスキー監督の最新作『ザ・ホエール』。タイトルの「ホエール」とは体重270キロの巨体の主人公ではなく、主人公の過去と現在の感情において重要な位置を占めるハーマン・メルビルの小説『白鯨』に出てくる巨大な白鯨を指している。

それでもこのタイトルを残酷な言葉遊びのように感じるかどうかは、この奇妙でひどく不快な部分も多い映画の受け止め方次第。個人的には「大爆死」という印象だ。

ベネチア国際映画祭でプレミア上映されると、主演のブレンダン・フレイザーは6分に及ぶスタンディングオベーションを受けた。確かに、フレイザーはゲイの教師チャーリー役を見事に演じている。

チャーリーは恋人を亡くしたショックから、アイダホ州のアパートに引きこもり、孤独な日々を送っている。

部屋は散らかって風通しが悪く、授業はオンラインのみでウェブカメラのスイッチは切ったまま。過食を繰り返して重度の肥満症になり、狭い室内を移動するのにも歩行器が必要なありさまだ。

だが引きこもりの孤独な男にしては、訪問者が後を絶たない。15分おきにチャイムが鳴って誰かしらやって来る。

ほぼ毎晩大きなピザ2枚を「置き配」していく配達人。自称「ニューライフ教会」の宣教師でチャーリーを救いたいと心から願っている青年(タイ・シンプキンス)。チャーリーが妻(サマンサ・モートン)と離婚して以来、疎遠になっていた娘(セイディー・シンク)。

17歳になった彼女は、家庭を捨てて唯一心から愛した年下の男のもとに去った父親を恨み、すさんだ日々を送っている。

なかでもチャーリーの唯一の友人らしい看護師のリズ(ホン・チャウ)は毎日のようにやって来て、厳しくも親身に、太りすぎて体の自由の利かないチャーリーの世話を焼く。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中