最新記事

アニメ

新作アニメ『あの夏のルカ』、「同性愛が裏テーマ」説は本当なのか

How Gay Is Pixar’s “Luca”?

2021年7月9日(金)12時06分
マリッサ・マルティネリ
アニメ映画『あの夏のルカ』

DISNEY/PIXARーSLATE

<イタリアの美しい港町で展開される2人の少年の物語が、カミングアウトを描いていると受け止められる理由は>

違う、あれはゲイ(男性同性愛)の恋愛話じゃない。監督のエンリコ・カサローザはそう言った。「あれ」というのは、ディズニー&ピクサーの新作アニメ『あの夏のルカ』のことだ。

監督が言うのだから間違いなさそうだが、『ルカ』に関しては予告編が流れた当初から、これって『君の名前で僕を呼んで』(2017年)のキッズ版じゃないかという噂があった。『君の名前で』は若い男同士のひと夏の経験を描いてアカデミー賞を受賞した作品。その監督グァダニーノの名が「ルカ」であることも、なんだか意味深だ。

しかしカサローザは、自分が描いたのは純粋に「プラトニック」な愛であり、そもそも「思春期以前」の話だと言う。もしもそこに『君の名前で』に通じるものがあるとすれば、それは自分も子供時代にイタリアの田舎で似たような経験をしたからだ、とも。ちなみに「ルカ」という名は単なる偶然。イタリアでは実にありふれた名だ。

それでも、そこに若い男同士の愛が透けて見えるのは事実。『君の名前で』ほど直接的ではないが、『ルカ』も性的なアイデンティティーや通過儀礼の問題、自分とは異質な人たちに抱く恐怖心などの問題を、いわば寓話的に描いている。

自身の正体を「カミングアウト」

主人公の少年ルカは、もともと海獣(シーモンスター)だが、素性を隠して地上で暮らしている。親の言い付けに背いて陸に上がり、そこで同じ境遇の少年アルベルトに出会った。当然、2人は仲良くなる。肩寄せ合って星を眺めるシーンなどは、文句なしにセクシャルでもある。

しかし2人の親は、2人が陸に上がったことも2人の関係も許さない。2人は一緒に逃げるのだが、陸の人間たちにも理解されず、自分たちのアイデンティティーを隠して生きていくしかない。ルカは地上の学校に入るが、アルベルトは慎重で、正体がばれたら大変だと思っている。

だが、やがてルカが地上の少女ジュリアといい関係になると、嫉妬したアルベルトは自分が海獣だと明らかにする。つまりカミングアウトだ。しかしルカは彼に同調せず、沈黙を守るのだった。

ルカの対応を、カミングアウトをめぐる同性愛者の苦悩に重ね合わせるのは、いささか乱暴だろう。それに(LGBTQでなくても)人が素性を隠す事情はさまざまだ。出生の秘密、人種の違い、あるいは在留資格の有無とか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中