最新記事

カルチャー

中国人監督の『ノマドランド』がアカデミー賞有力候補...なのに中国人が全然喜ばない理由

Chloe Zhao Tipped for Oscars Glory, Falls Foul of Country's Censors

2021年4月23日(金)18時27分
ジョン・フェン
『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督

クロエ・ジャオ監督(4月22日) Film Independent Spirit Awards Handout via REUTERS

<2月のゴールデン・グローブ賞のときには大盛り上がりだったが、突如としてジャオ監督は中国の大敵になった>

4月25日に迫ったアカデミー賞の発表だが、中国では異常なほど盛り上がっていない。その背景には、本来なら中国で最大の注目作になるはずだったクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』に関する投稿が、中国最大のソーシャルメディアプラットフォーム「微博(ウェイボー)」から締め出されている事情がある。同作は、作品賞などにノミネートされている。

2月に発表された第78回ゴールデン・グローブ賞では、この作品が映画部門の作品賞を、監督のジャオが監督賞を獲得した。その後、ノマドランドの中国語タイトルである『无依之地』から生まれたハッシュタグは、9000万回近い閲覧数を記録した。

ジャオ(中国語名は趙)は北京生まれで、同賞を受賞した初のアジア系女性となった。その快挙は、全国民の勝利として中国で祝福されていた。

だが、その1週間後に発掘された8年前のインタビューのなかで、中国に対して批判的ともとれる発言をしていたことから、ジャオは突如として中国社会の大敵になった。

中国版ツイッターとも言える微博では、ノマドランドのハッシュタグが消えた。1カ月あたりのアクティブユーザー数が5億人を超える微博サイトを検索しても、なんの結果も表示されない。ハッシュタグのない投稿は散在しているが、フォロワーなどからの反応はほとんどない。

「いたるところに嘘がある場所」

現在は39歳でアメリカに住むジャオは、15歳のときにロンドンの寄宿学校で学ぶために移住し、ロンドンの高校を卒業。その後、米マサチューセッツ州の大学で学んだ。

問題になった2013年のインタビュー(現在はウェブアーカイブでのみ閲覧可能)は、ニューヨークの雑誌「フィルムメーカー」によるもので、ジャオはそのなかで、中国を「いたるところに嘘がある場所」と形容している。

「絶対に逃げ出せないような感じがした。わたしが若いころに得た情報の多くは、真実ではなかった。だから、わたしは家族や自分のバックグラウンドに対して、とても反抗的になった」とジャオは話している。「突然のようにイギリスへ行って、自分の歴史を学びなおした」

ジャオの発言は、中国に対する侮辱とみなされた。それまではジャオの才能をめぐって行われていた議論はすぐに、彼女の市民権についてや、母国に対する誇りと忠誠心の欠如をめぐるものに変わった。ゴールデン・グローブ賞での快挙を報じ続けていたメディアは批判的なコメントであふれ、なかにはジャオを「裏表がある」と評するものもあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット

ビジネス

豪当局、証取ASXへの調査拡大 安定運営に懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中