最新記事

カルチャー

対談:柳井正×佐藤可士和、「UT」「+J」「ビックロ」......2人の対話が生み出してきたもの

2021年2月13日(土)12時15分
写真:河内 彩 文:高瀬由紀子 ※Pen Onlineより転載

pen20210212satokashiwa-7.jpg

「『LifeWear』については、"Life"と"Wear"という言葉自体が元々あるので、それを組み合わせた言葉のイメージが湧きにくいという意見もありました。時間をかけて丁寧に伝えながら、徐々に定着させていった感じです」

佐藤 1対1の対話から、本当にいろいろなプロジェクトが生まれましたね。「UT」「+J」「ビックロ」......。方向性の指針となる概念そのものをデザインすることも増えましたが、その中でもユニクロの服づくりの哲学を"LifeWear"というコンセプトとして編み出すのは大変でした。

柳井 5年以上かかったかな。ひと言でずばり伝えるために、ものすごく時間をかけて議論して。

佐藤 本当に難しかったですね。柳井さんと僕と、コピーライターの前田知巳さんと、日本文学者のマイケル・エメリックさんとの4人で、とことん話し合いました。まず、ユニクロの服とは何かという6箇条を定義したんです。

柳井 「ライフスタイルをつくるための道具」とか「世界中のあらゆる人のための服」とかね。しっかり精査して定義づけたことで、最終的にはLifeWearという言葉に集約することができました。

佐藤 「人々の生活をより豊かに、より快適にする究極の普段着」という意味を込めた、ワンワードのLifeWear。新たなカテゴリーの服という自負をもって宣言したのが2012年ですが、ようやく定着してきた感があります。

pen20210212satokashiwa-8.jpg

佐藤がクリエイティブ・ディレクションを行った「ユニクロTOKYO」。店舗デザインを手がけたのは、世界的な建築ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロン。デジタル看板は、インターフェースデザイナーの中村勇吾によるもの。

pen20210212satokashiwa-9.jpg

古いビルの内装を剥がしてコンクリート剥き出しにした改装は、削ぎ落として本質を磨くというユニクロの美学ともリンクする。4フロアを突き抜ける吹き抜けの大空間は圧巻。

柳井 本格的な定着はいまからですね。世界中に知らせていかないことには浸透しませんから。言葉だけでなく、実体をつくらないといけない。商品であり、売場であり、WEBサイトであり、あらゆることがLifeWearにつながるように。

佐藤 そうですね。すべての商品や活動にこの概念を反映することで、誰もが同じようなイメージを持てるようにしていかないと。LifeWearを体現する世界最大級のグローバル旗艦店として昨年オープンしたのが、銀座の「ユニクロトウキョウ」です。

柳井 ここでは、大きな吹き抜け空間をもつ1階に、LifeWearをシーズンごとにインスタレーションで表現するエリアを設けています。書籍の販売や子どもたちが遊べるコーナー、サスティナビリティを紹介する展示など、洋服以外の切り口からもLifeWearの世界観を伝えられる店づくりをしていますね。

佐藤 現在のユニクロの最新形を、広くアピールする店舗になっていると思います。

"日本代表"から、世界一のブランドを目指して。

pen20210212satokashiwa-10.jpg

「近年のユニクロのテーマのひとつが、実店舗における新たな体験をつくって、買い物だけでない情報発信の場にしていくこと。ユニクロパークはその代表例です」と語る佐藤。

佐藤 1対1の対話からは、横浜の「ユニクロパーク」も生まれましたね。

柳井 これも時間がかかったけどね。時代とともに実店舗のあり方も変わりつつある中で、一等地にある旗艦店とは違う形の店をつくろうというところから始まって。

佐藤 ええ、郊外にあってもそこに行くこと自体が目的になるような個性をもった店舗を開発しようと構想したのが5年ほど前。その時は具現化まで至りませんでしたが、ずっと考え続けていて。横浜郊外に店舗を一からつくることになった時に、満を持して実現することができました。

<参考記事>【佐藤可士和のクリエイションの秘密】後編:クリエイティブでビジネスを変える、「デザイン経営」の力。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中