最新記事

人生を変えた55冊

日本初のアフリカ人学長が「価値観」を揺さぶられた5冊の本

2020年8月12日(水)16時25分
ウスビ・サコ(京都精華大学学長)

COURTESY OF KYOTO SEIKA UNIVERSITY

<マリ出身の京都精華大学学長ウスビ・サコが、影響を受けた5冊を紹介。その1冊は西洋文化の優位性を再考させられた『オリエンタリズム』だが、実は日本も西洋からほかの文化を見下していることに気付いたという。本誌「人生を変えた55冊」特集より>

私たちは学校に通いだすと、価値観を「置き換える」癖が生まれがちだ。私の出身国のマリでも、土着文化は古くさく、西洋文化は新しくて合理的でかっこいい、となっていく。その置き換えられた価値観を取り戻してくれたのが、アマドゥ・ハンパテ・バーの『アフリカのいのち――大地と人間の記憶/あるプール人の自叙伝』だった。


『アフリカのいのち──大地と人間の記憶/あるプール人の自叙伝』
 アマドゥ・ハンパテ・バー[著]
 邦訳/新評論

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

これは西洋文化とマリ文化の比較、特にフラニ族(プール族)の文化などマリ文化の価値を中心に書かれたもので、著者のハンパテ・バーはフランス植民地時代と解放後の両時代のマリを生きた人物だ。
2020081118issue_cover200.jpg
自国や自民族の文化に対する価値観に壁が立ちはだかるのは、外国の社会とその現実に身を置いたとき。課題図書として読んだ高校時代はよく分からなかったが、外国で読み直したときにこの本の価値が見えてきた。日常にありながら気付かなかった自国文化の大切さや、合理性に隠れて見えなくなっていた自然に関する価値観など示唆に富む。

自国文化の重要性を学ぶことは、外国文化を理解する上でも非常に役に立つ。その土地の文化や国の価値観がどこにあるのかを見つけるすべも、この作品から学んだ――。

ハンナ・アレントの『人間の条件』は学生にも薦めている一冊だが、最後まで読まない人も多い(苦笑)。実際、ちょっと面倒くさい本だ。最初は人間である条件などあるのか、そんなものが必要なのかと疑問に思ったが、期せずして専門書以外で自身の研究に役立つ一冊になった。


『人間の条件』
 ハンナ・アレント[著]
 邦訳/筑摩書房

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

私の研究分野の1つは社会と建築空間の関係性や居住空間などの領域論。この本は、人間を考察するときには専門書で学ぶ以上に広い見地から見る必要があることを教えてくれた。人間単独ではなく、人が社会で受ける影響をどう考えるべきかという視点を持つきっかけになった。

「西洋優位」を考え直す

領域論では私的領域や公的領域などを議論する。かつて、人々は公共領域に対する姿勢が良かった。公園に行くときでも正装するなど、家の外と中を区別していた。外に対するリスペクトだが、ある時期からこの姿勢が崩れて公共領域は私的領域の延長と考えるようになり、パジャマ姿で外出してもいいんだとなった。こうした人間行動の変容は、専門書だけでは説明がつかないことも多い――。

【関連記事】大ヒット中国SF『三体』を生んだ劉慈欣「私の人生を変えた5冊の本」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習

ワールド

米中マドリード協議2日目へ、TikTok巡り「合意

ビジネス

英米、原子力協力協定に署名へ トランプ氏訪英にあわ

ビジネス

中国、2025年の自動車販売目標3230万台 業界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中