最新記事

音楽

死後ののぞき見か プリンスの「新譜」でパープル・レイン再降臨

Purple Reign

2018年11月26日(月)12時10分
ザック・ションフェルド

プリンスの歌声は今も私たちの心を揺さぶる MICHAEL OCHS ARCHIVES/GETTY IMAGES

<プリンス死後初の「新アルバム」は未発表音源集。完璧主義者で知られたアーティストは何を思う>

「照明を落としてくれる?」

24歳のプリンスはエンジニアに声を掛け、自宅スタジオのピアノの前に座った。

後に代表作となる3曲の初期のバージョンのほか、カバーが2曲、未発表の3曲。34分間の弾き語りは、やがて始まる黄金時代の前奏だ。

録音されたのは1983年。既に『ダーティ・マインド』『戦慄の貴公子』『1999』とヒットを連発してスターになっていたが、プリンスは何事にも全力投球だった。

「目の前で誰も聴いていなくても、多くのアーティストがアリーナに向かって歌うときと同じように私たちの感情を揺さぶる」と、プリンスの音源アーカイブを管理するマイケル・ハウは語る。

エモーショナルな弾き語りは35年の時を経て、今年9月に未発表音源集『ピアノ&ア・マイクロフォン1983』としてリリースされた。プリンスが2016年4月に急死して以来、初めて発表されたアルバムとなる。

mag181126prince-sub.jpg

最新アルバムのジャケット

録音されたカセットテープ(TDK・SA60)は、ミネソタ州チャンハッセンの自宅兼スタジオ「ペイズリーパーク」の広大な倉庫に眠っていた。ハウによると、ほかにも未発表の音源が「文字どおり数千本のカセット」に収められている。

録音の詳しい時期は分からない。「1999ツアー」の合間の1月か、あるいは初主演映画『パープル・レイン』の撮影が始まる直前の10月だろうか。

『ピアノ』は、秘密主義で知られたプリンスの創作の過程が垣間見える生々しい記録でもある。専属のレコーディング・エンジニアだったドン・バッツに指示する声。ピアノを演奏しながら床を踏む音。1987年に発表された「ストレンジ・リレーションシップ」の初期のバージョン。

翌84年に発表されるあの名曲は、わずか1分半の演奏が私たちをじらす。「公表されている『パープル・レイン』の音源で、これより昔のものは聞いたことがない」と、ハウは言う。一方で、84年に「ビートに抱かれて」のシングルB面に収録された「17デイズ」は、アレンジもほぼ完成されている。

ジョニ・ミッチェルをカバーした「ア・ケイス・オブ・ユー」は、最後となった2016年のツアーを含め繰り返し披露した曲。プリンスの元恋人でバックコーラスを務めたジル・ジョーンズは、彼が「物悲しい曇りの日にミネアポリスで延々と車を走らせるときは」この曲をかけていたと、『ピアノ』のライナーノーツに書いている。

もう1つのカバー「メアリー・ドント・ユー・ウィープ」は19世紀の霊歌だ。映画監督のスパイク・リーは最新作『ブラッククランズマン』のエンドクレジットで、プリンスの演奏を使っている。

ファンの後ろめたい喜び

プリンスがこの弾き語りを人に聴かせたかったかどうか、その答えを知るすべはない。未公開の音源について、指示や遺言は残されていない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、支援的な金融政策に期待

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調

ビジネス

米家計・銀行・企業の財務状況は概ね良好=クックFR
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中